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リハ専門職の鳥瞰

 このnoteは、リハ専門職として働きはじめて3か月程度経った若手リハ専門職を対象としています。そして、このnoteの著者は、直近5年間は管理職に専従した23年目の作業療法士です。管理職として臨床を離れたことが、臨床を鳥瞰する機会となりました。私が臨床を鳥瞰して感じたことが、働きはじめて少し慣れた頃に抱く悩みに役立つような気がしたのでnoteを開きました。1人でも多くの悩める若手リハ専門職のお目に触れたら幸いです。

作業療法士としての私の臨床時代

 作業療法士としての私の最初の職場は1人職場でした。周囲の多職種は私を専門職として扱い、相談できる作業療法士は職場の外にしかいませんでした。私は、対象者の期待と多職種の期待に応えるために必死でした。インターネットがまだ一部の人にしか普及していない時代。論文や書籍を入手するハードルは今よりも高く、医学書の専門店に通っては、まるで空腹の高校生が菓子パンにかじりつくように書籍や雑誌を読みあさりました。
 やがて、先輩作業療法士がたくさん所属する現在の職場に転職してからは臨床に没頭しました。とにかく、相談できる作業療法士がすぐそばにいて、欲しい情報にすぐに手が届く環境はとても贅沢に感じました。帰宅時間はほぼ21時以降で、日付が変わる頃に帰宅することもよくありました。それでも疲労感はありませんでした。それは、対象者の役に立ちたいとか、知的好奇心を満たしたいとか、自己実現を図りたいという内発的な行動だったからだと感じます。誰かや何かにやらされているという感覚はありませんでした。
 その後、組織の細分化とジョブ・ローテーションがはじまり、全ての病期と多くの診療科を経験しました。元々自らが描くキャリアビジョンがあったわけではありません。あくまで、「次はこの領域を経験したいな」という近視眼的主張で異動を申し出ていたように感じます。
 複数の部署を経験する中でも、生活期での経験は私のリハ専門職としての価値観を決定づけるものでした。つまり、生活期での患者満足度(経験価値)こそが、その方にとってのリハビリテーションの成果であると考えるようになりました。また、生活期での経験の中で、急性期というリハビリテーションの第一ボタンを掛け違えた時の弊害を感じるようになりました。この、第一ボタンの掛け違えを無くしたいという考えで再び急性期の部署に戻りました。そこから、私の役割はプレイヤーからプレイングマネジャーに変わっていくことになります。

リハ専門職を鳥瞰した管理職時代

 管理職としてリハ専門職を鳥瞰するようになったのは部長に登用された以降です。部長に登用されるまではプレイングマネジャーとして臨床と管理業務を両立してきました。しかし、専門性の異なる6つの科で構成され、リハ専門職の総数が120名を超える部の運営は片手間ではできませんでした。そこで、プレイングマネジャーからマネジャーに移行することを決意したのです。
 マネジャーとして臨床を離れると、はじめていろいろな所のリハ専門職を鳥瞰することができるようになりました。すると、多くのリハ専門職に共通するネガティブな特徴とポジティブな特徴の存在を感じました。
 多くのリハ専門職に共通するネガティブな特徴は、専門職としての責任感が強く、知らないことを知らないと素直に言える人が少なく感じたこと。チームを意識しつつも、結果的には個人プレイに走りやすい人が多く感じたこと。対象者の良いところを見つけ伸ばすことは得意なのに、自分や自分の環境にはそれができない人が多く感じたことです。
 一方、多くのリハ専門職に共通するポジティブな特徴は、対象者の主体性を引き出すことが得意なことです。他方、リハ専門職の魅力は、対象者と対象者の活動と参加を共に考え、チームの一員としてそれが実現した際の喜びを共有できるところと感じました。
 あくまで、これらは限られた対象の中で感じた個人的な印象です。したがって、リハ専門職の特徴や特性を決定づけるものではありません。

若手リハ専門職が抱く悩み

 さて、リハビリテーションの成果は対象者の主体性を引き出すことで最大化すると感じます。その手段として、さまざまな刺激入力や医療面接、目標設定とその共有が最低限必要になると感じます。
 リハ専門職は分刻みのスケジュールで対象者にリハビリテーションを提供します。時間に追われる働き方は、対象者の主体性を引き出すための医療面接の質を下げ、目標設定と共有のプロセスを短絡化し、対象者の主体性を引き出すというリハ専門職のポジティブな特徴を希薄化させます。これにより、リハ専門職自身が、対象者と対象者の活動と参加を共に考え、チームの一員としてそれが実現した際の喜びを共有するというリハ専門職の魅力を感じにくくさせるのです。つまり、若手リハ専門職は、時間に追われることでリハ専門職の魅力を感じにくくなり、その結果、悩みを抱きやすくなると考えることができます。
 私の過去の経験で考えると、最初に入職した職場が1人職場だったということもあり、入社式翌日には100数十名の対象者の担当となりました。そのうちの100名は施設基準で週に2回以上リハビリテーションを提供することが求められていたため、1週間で延べ200名以上にリハビリテーションを提供していました。したがって、時間に追われることに加えて、はじめて見るような疾患名の存在等や、思うようにリハビリテーションの成果が現れない経験、そしてロールモデルの不在等も影響して無力感や不満足感、不安感に悩まされたと感じます。
 近年では、新卒で1人職場となることはほとんどなく、入職後に数名づつ段階的に対象者を担当する職場が多いと推測します。したがって、私のように急激に多数の対象者を担当することはないと想像しますが、私と同じように無力感や不満足感、不安感に悩まされている若手リハ専門職は多いのではないでしょうか。それはつまり、結局時間に追われてしまっているのではないかと推測します。

若手リハ専門職が明日から心がけること

 それは、時間に追われないように準備すること。
 上述のように、私が多くのリハ専門職に共通すると感じたネガティブな特徴に、専門職としての責任感が強く、知らないことを知らないと素直に言える人が少なく感じた点がありました。これは、臨床経験が短いリハ専門職ほどその傾向が強いように感じます。知らないことを知らないと素直に言えないことで、結局時間に追われることになります。そして、チームでの協働の調整も不十分となり、その結果個人プレイに走ってしまうのではないでしょうか。
 これらの悪循環の改善には、まずは勇気を出して相談することです。おそらく、私が1人職場に勤務していた時よりも相談できる環境にあるはずです。直接相談できれば、自分で調べるより効率的に準備ができます。相談ができるようになったら、次は自分の身の丈にあった短期目標を決め、達成したものを数えましょう。これにより、無力感による悩みは緩和され、自分のよいところも伸ばすことができます。最後は自分と周囲の環境のよいところを観察し、ロールモデルを探しましょう。これにより、不満足感や不安感もきっと緩和されるでしょう。

若手リハ専門職に対する職場の先輩のあり方

 われわれの業界の将来を担う若手リハ専門職はわれわれの宝です。そして、同じ職場に入職した若手リハ専門職は、職場の採用基準を満たした方です。
 若手リハ専門職が時間に追われないように、職場の先輩は相談を受けましょう。そして、若手リハ専門職のロールモデルとなるべく、手本となる行動や所作を心がけましょう。そして、若手リハ専門職の将来の不安を吹き飛ばすくらいのでっかい夢を語りましょう。
 われわれが経験してきた苦労を同じように経験させる必要はありません。若手リハ専門職がわれわれの過去と同じ経験をしているうちは、われわれを超えるリハ専門職には成長しません。われわれが舗装してきた道のアスファルトを剥がして同じ舗装をさせることは止めましょう。後進には、われわれが舗装した道を走り抜けさせて、その道の先を舗装させること、これが進歩なのです。

最後は偉そうなことを申し上げて恐縮ですが、最後までお読みいただきありがとうございました。

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