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なぜ、多職種連携に苦労するのか?

 医療や福祉の領域では、多職種連携を課題とする動きが年々高まっています。下の図は、メディカルオンラインを用いて、多職種連携に関する論文数を発行年毎に整理したグラフです。これを見ると、多職種連携に関する論文の発行は、ここ10年間で急激に増加している様子がわかります。

  多職種連携に苦労する理由は、大きく2つの原因があると私は考えています。一つ目は、「信頼関係が不十分なまま正論をぶつけるから」です。特に、情緒的なコミュニケーションを大切にしているかどうかと、聞く耳を持っているかどうかです。二つ目は、「私の課題は多職種の課題ではないから」です。つまり、解決すべき課題が共通の課題となっているかが重要ではないかと考えています。

 まず、なぜ正論が通らないのかについて考えてみます。正論が通るためには、両者の信頼関係が重要であると感じます。強力な上下関係が働いている場合は別ですが、信頼関係の乏しい状況で負担を強いられるような正論をぶつけられると、つい反発したくなってしまうことは多くの方が経験したことがあると推測します。この信頼関係を構築するのに必要であると考えられているのが、道具的コミュニケーションと情緒的コミュニケーションです。
 道具的コミュニケーションとは、必要な情報のやりとりのことを指します。一方、情緒的コミュニケーションとは、気持ちを伝え合うことを言います。仕事の場だからという理由で、道具的コミュニケーションばかりで情緒的コミュニケーションを重要視していない人を散見します。このような人に対しては、周囲の人も道具的コミュニケーションで接していることが多いように感じます。これでは、いつまで経っても信頼関係が強く深くなることはないような気がします。では、情緒的コミュニケーションによる影響とはどんなものでしょうか?

 下のチェックリストは、正論振りかざし度のチェックリストです。当てはまるものが多いほど、あなたが正論を振りかざしているということになります。
 信頼関係が希薄な状況で正論を振りかざすと、大概はうまくはいきません。お互いの気持ちを伝え合うという情緒的コミュニケーションを伴う信頼関係が築けていれば、たとえ正論を振りかざしたとしても、チェックリストにあるような何となく気まずい帰結にはならないだろうと感じます。

 一方、コミュニケーション・ギャップは、信頼関係の構築を阻害します。下のチェックリストは、自分自身の聴いているつもり症候群のチェックリストです。当てはまるものが多いほど、周囲とあなたの間にコミュニケーションのズレが生じているということになります。つまり、あなたが相手の話を聴いてているつもりでも実はあまり聞いていないということであり、周囲の人もそれに気づいてる可能性が高いということになります。
 では、どうすれば聴いているつもりではなく、聴くことができるのでしょうか?

 聴く耳は、以下のようなスキルが必要です。
 わかりやすいところでいえば、相手の言葉を遮らないことや、自分より相手に多く喋らせているかどうかを振り返るだけでも、自身の聴く耳のスキルの程度を推し量ることができるような気がします。

 また、「相手の」聴いているつもり症候群を判断するチェックリストもあり、それを下に示します。先程の自分自身のチェックリストでは、チェックしてはじめて気付かされるという感覚があった方も多いかと思いますが、相手の聴いているつもり症候群のチェックリストでは、新鮮さがあまり感じられないという人も多いことと推測します。つまり、人はそれだけ自分自身のことには疎いため、定期的にチェックリストなどを用いで振り返ることが必要であると考えることもできます。
 つまり、聴く耳を持つように意識することが重要になります。

 参考として、連携が取りにくい職種と理由についての調査結果を下に示します。これは、地域に在住する医療、福祉、保健関連施設所属の専門職132名を対象として、連携が取りにくい職種とその理由についてアンケート調査した結果です。
 医師や看護師であれば忙しそう、ケアマネやPT(理学療法士)、ST(言語聴覚士)であればためらい、OT(作業療法士)であれば役割範囲が不詳が最も多いという点には多くの示唆が含まれているように感じます。それについては、また別の機会に取り上げたいと考えています。

 多職種連携に苦労する二つ目の理由として、「私の課題は他職種の課題ではないから」というものがあると考えています。多職種連携を行うために、交渉が必要になることがあります。具体的には、より良い運用を行うために、他職種に協力を仰ぐことなどがそれに当たります。このときに、解決すべき課題が共通の課題となっていないとうまくいかないことが多いように感じています。つまり、単なる押し付けになってしまうのか、あるいは、それをすることでお互いにwin-winの状態になることができるのかということです。
 多職種連携において、お互いにwin-winの状態となるということは、解決すべき課題が共通の課題となっていることが前提になります。このような視点で、多職種連携に向き合う必要があると考えています。

 最近、多職種連携についての講演を依頼される機会が多くなりました。直近では、サンビレッジ国際医療福祉専門学校さま(岐阜県)や株式会社geneさま(愛知県)から貴重な機会をいただきました。

 多職種連携は、ここ10年で飛躍的にその重要性が注目されています。その在り方は決して唯一無二の正解があるわけでもありませんし、私自身の経験が全てサクセスストーリーばかりというわけでもありません。
 私と一緒に多職種連携を共通の課題として捉えていただける方とたくさん繋がり、信頼関係の上で正論をぶつけ合いながら、より良い多職種連携を追求していく仲間を増やすことができたらと考えています。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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