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ナチス・ドイツを動かした地底世界ヴリル伝説の聖典「来るべき種族」解読/宇佐和通

19世紀イギリスで、ある著名作家がひとつの小説を著した。地底世界に高度な文明を築いて栄華を極める超人類を描いたものである。だが、娯楽小説であったはずの物語の内容が、後にナチス・ドイツと結びつき、世界を震撼させることになる。
この小説『来るべき種族』の翻訳者の談話を中心に、ナチスの、ヒトラーの抱いた野望を解き明かす。

文=宇佐和通 イラストレーション=不二本蒼生

ユートピア小説『来るべき種族』

 読者諸氏は『来るべき種族』(原題:『The Coming Race』)という小説をご存じだろうか? イギリスの政治家・作家のエドワード・ブルワー=リットン(1803~1873)による、“ユートピア小説”というジャンルに分けられる作品だ。ここでその内容をざっと紹介しておこう。

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エドワード・ブルワー=リットンの著書『来るべき種族(The Coming Race)』。小澤正人氏による邦訳版が2018年に月曜社から発売された。

――主人公は偶然、地球の奥底にある地底世界に入り込んでしまう。そこにはヴリル=ヤと呼ばれる社会があり、その住人“アーナ”は、神秘のエネルギー“ヴリル(Vril)”を操り、超文明を築いていた。
 ヴリル=ヤに受け入れられた主人公はアーナの社会をつぶさに観察していく。地底世界の伝説によれば、彼らはいつの日か地上に出現するという。地球内部の先進的文明社会を舞台に繰り広げられる、超エネルギー・ヴリルと自動人形を活用するアーナ、そして格差や差別、労働も戦争もないヴリル=ヤについての物語であるーー。

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