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「死んだ前夫」/読者のミステリー体験

「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。

選=吉田悠軌

死んだ前夫

北海道/福島ユミ子(23歳) 

 私は19歳のとき、5歳上の男性と結婚しましたが、2年後の21 歳のときに離婚しました。そして、札幌の実家に戻り、就職もし、恋もして、まったく新しい人生を歩み出したのですが、ある日、別れた夫が会いにきました。
 彼は、私に「もう一度、やり直そうよ」と迫りましたが、私は断りました。私の新しい恋人も、彼に私のことをあきらめるよう、いってくれました。その翌日、彼はだれにも何も告げず姿を消し、以来、行方不明となったのです。

 昭和60年5月、心機一転のつもりで外国旅行に出かけました。その途中、腹痛を起こし、帰国後しばらく入院しました。左のラッパ管(卵管)と卵巣が破裂しているとのことでした。医師からは、もう少しで手遅れになるところだったといわれました。
 ちょうど、その手術の行われた日が、別れた夫の誕生日でした。そのころ私は、彼がもうこの世の人ではないような気がしていました。実は、毎日のように私は、彼の夢を見ていたのです。彼は、とても暗い、悲しそうな顔をしていました。

 昭和60年7月28日、札幌手稲山の山奥で、死後3か月ほど経過した彼の遺体が発見されました。遺書はありませんでした。そして私は、彼の夢を見なくなりました。

 それから何か月かたち、ある日、友だちとディスコへ行ったときのことです。イスに座り、まずは水割りで乾杯しようとグラスを上げた、その瞬間でした。
 2人が同時に、だれかにイヤというほど強く片足を引っぱられたのです。
 私たちの悲鳴を聞いてかけつけた店の人に、すぐテーブルの下やイスの下を調べてもらいましたが、だれもいませんでした。もっとも、そのとき私も友だちも、自分たちの足を引っぱったのは人間の手などではない〝何か〞だという気がしていたのです。私は、もしや死んだ彼の霊では……と思ったのでした。

 それ以来、ほとんど毎日といっていいほど私の前に、その〝何か〞が現れるようになりました。階段を上り下りする音、突然、本棚の戸が揺れたり、白い影がスーッと横切ったり。また、私の部屋は2階にあるのですが、その窓をコツコツとたたかれたこともあります。もちろん、すぐに窓を開けてみましたが、それらしきものはどこにも見あたりませんでした。

 そして、今年の1月6日のことです。

 恋人と某スナックで新年会をしていると、何とそこに、死んだはずの彼が現れたのです。カウンターに座り、悲しそうな顔で私を見つめているのです。私は彼に気づいたとたん金縛りにあったように動けなくなり、その恐ろしさに泣き出しました。周りにはたくさんの客がいましたが、その人たちには彼の姿が見えないらしく、私が突然泣き出したことに、ただ驚くばかりでした。恋人も、まったく同じことでした。

 彼の姿は、30分ほどで静かに消えました。
 同時に、私の体も動くようになりました。

 恋人にその話をしましたが、どうしても信じてもらえませんでした。しかし、そのあと記念にと、その店でインスタント写真を撮ってもらったところ、私と恋人の間に、彼が写っていたのです。これには、恋人も周りの人も本当にびっくりし、みんな青ざめていました。

 自宅に帰り、そのことを両親に話すと、そんな写真すぐに焼いたほうがいいといわれました。

 実は私は、もう一枚、変わった写真を持っていました。その3〜4年前に前の夫が写してくれたもので、私の体全体をオレンジ色の光のようなものが覆っているのです。その写真をみるたびに、私は自分が何かにとりつかれているのではないかという気になったものでした。

 翌日さっそく私は、その2枚の写真を、お線香をたき、塩をかけながら燃やしました。
 それで、彼も成仏したのでしょうか、それからは私の体調もとてもよくなり、不思議なことも起こらず、彼も現れなくなりました。現在、彼の遺骨は、北海道大学の法医学研究所に、静かに安置されています。


(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)


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