記紀には登場しない"封印された"女神「瀬織津姫」の謎/本田不二雄・神仏探偵
「セオリツヒメ」という女神をご存じだろうか。いま密かに多くのフォロワー(信奉者)を集めるその女神は、実は『古事記』『日本書紀』にはいっさいその名は登場せず、祝詞のなかで読み上げられるだけの存在にすぎない。そうでありながら、瀬織津姫(せおりつひめ)は現代のわれわれを魅了しつづけてやまない存在なのだ。
そこで今回、この謎めく女神をめぐって、現場を訪ね、これまで偽書とされてきた古文献をひもとき、史料の奥に潜む禁断の世界に分け入ってみた。
文=本田不二雄(神仏探偵)
第一章 令和に浮上した瀬織津姫と「大祓詞」の謎
瀬織津姫、令和に顕現す——。
この謎めく女神をめぐる探索をはじめたまさにそのとき。そのビジュアルが不意にパソコンの画面にあらわれた。検索エンジンがヒットしたのは、陶彩画という聞きなれない技法で描かれた、草場一壽氏の新作「瀬織津姫」であった。
何というタイミングだろう。
しばし呆然とその絵に見入ってしまった。いや魅入ってしまった。
瀬織津姫とは何者なのかという思考のプロセスをすっ飛ばして、いきなり答えを見せられたような気分だ。
温かな色調の後光と瑞々しく飛沫する水滴を背景に、霊体を思わせる淡く繊細な色調の龍に取り巻かれ、すっと立ちあらわれた女神像。唐風とも和風とも異なる紋様の古代装束をまとい、金冠をつけ、超然としたまなざしをこちらに向けている。
独特の光彩は、陶板に絵付けを行い、焼成を繰り返すという陶彩画の技法(草場氏独自の手法)によるものだ。窯入れ(かまいれ)し、「火に託す」ことで人の思い計らいを超えた輝きが生まれてくるのだという(くわしくは「草場一壽公式サイト」を参照)。
ともあれ、冒頭の詩に注目されたい。
瀬織津姫への讃歌といっていいだろう。きわめて象徴的な表現ながら、ひとつひとつのセンテンスに姫神に秘められた意味が明かされている。「封印」された神、「月の神」、「龍神」……。アーティストの内に宿したカミが、生き生きとはたらき、宇宙的な存在として立ち上がってくるビジョンが鮮やかに描写されている。
おそらく、こうした〝感得〟を重ね、姫神はついに草場氏の筆を借りて「おでまし」になったのだろう。
草場氏は語る。
「アーティストは、想像によって(内なるイメージに迫る)非科学的なアプローチをとります。もちろん(書物などで)勉強しながらですけど、現実世界で見えている世界とはちがうイメージが出てくるんです。それが、自分のなかでは真実として収まっている」「最終的に自分の魂の中の記憶を捜しているのです」と草場氏はいう。
「歴史をひもとくと、文章として残されたものが『ある』ことになっている。考古学もそう。物証としてあるかどうか。では、そこに『ない』ものは本当になかったのかと」
「いっぽう大きな視点でニッポンとは何か、われわれのオリジナルは何かを追究していくと、縄文に行きつく。自然と人と神がともに息づく世界。そこに着目すると、今ある日本が統一されていく過程で、埋もれていった人たちがいるという事実とリンクしていく」
草場氏は、文字をもたない海外の先住民らとの交流を通して、魂と魂が繋がっているという感覚を、儀式を通じて体感したという。そして「自分の内に繋げられるものがある」ことに気づいたと語る。こうして、みずからの魂に記憶されている「埋もれた歴史の熾火(おきび)」が燃えだしたのだという。
映画『君の名は。』と重なる男女神の入れ替わり
やや長すぎる前書きになった。
いま静かに、かつ思いがけない増加スピードで瀬織津姫のフォロワーが生まれている。筆者が頻繁にその名を聞くようになったのは数年ほど前からだが、この2~3年はとくにその傾向が顕著だ。
あくまで印象だが、以前はスピリチュアル感度の高い人たちのあいだで話題にされているという認識だったが、最近はもっと裾野を広げているようだ。
そのきっかけのひとつと考えられるのが、映画『君の名は。』である。
同作に本誌がキーアイテムとして登場したことは読者もご存じだろうが、一部のマニアによって本作の深読みがなされ、ネットに拡散されていることはご存じだろうか。(参考記事:新海誠監督インタビュー)
どういうことか。
まずはあらすじを要約してみよう。
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