禁断の”遺伝子設計”! 「人工生命体」の最前線と進化の謎/中野雄司・総力特集
自分たちの手で新たな生命体を創りだすーー。神の領域への挑戦は、錬金術から化学へ、そして分子生物学へとつながった。
その悲願は、ついに2016年6月、親をもたない人工ゲノム生物、ミニマル・セルの誕生で実現に明確な一歩が踏み出されている。
それは、現代に再び起こる新たな進化を予感させる偉業であった。
(ムー 2019年4月号・総力特集)
文=中野雄司 イラストレーション=久保田晃司
中国で誕生したデザイナーベビー
2018年11月26日、驚くべきニュースが世界を駆け巡った。
中国・南方科技大学の賀建奎(がけんけい)准教授が、世界で初めてヒトの受精卵に遺伝子編集技術を行い、いわゆる「デザイナーベビー」の誕生に成功したと発表したのだ。
2018年11月に香港で行われたヒトゲノム編集国際会議で、遺伝情報を書き換えた双子の女児が、デザイナーベビーとして誕生したことを報告する、中国・南方科技大学の賀建奎(がけんけい)准教授。会場は一時騒然となった(写真=AFP/アフロ)。
学会の反応は激烈なものだった。英オックスフォード大学のジュリアン・サヴレスキュ教授は「絶対に許される実験ではない。健康で正常な子どもを未知の危険にさらす愚かな行為だ!」と、この実験が不当なものであると激しく非難。また世界中で数百名もの科学者も、SNSを通じて、ヒトの受精卵を使った実験は許されるべきではないと反対の立場を表明した。
いささかヒステリックとも思えるこうした科学者たちの反応は、十分に予想されるものだった。というのも、この数年、科学者たちはみなある種の「危機感」を共有していたからにほかならない。
「ついにそのときが来たか、というのが正直な感想ですね」
と語るのは、中原英臣博士(山野医療専門学校副校長)である。
「この10年ほど、遺伝子編集の技術は、猛烈なスピードで進歩を続けてきました。少し前まではとうてい不可能と思われていた、ヒトの遺伝子をピンポイントで編集する技術も確立されました。今や思うがままに人間を設計することができる、そういう時代にわたしたちは今、生きているのです」
パンドラの箱は開けられた。
だが、固く閉じられていた箱の蓋をこじ開けたのが、中国の科学者であったことは注目すべき点だと、中原氏はいう。
「欧米諸国の科学者たちは、技術的に可能であっても、この実験は絶対に行えません。心理的あるいは社会倫理的に大きなブレーキがかかります。〝神の領域〟に足を踏み入れてはいけないという制約が彼らの足枷になっています。しかし、中国は違います。宗教的な制約はありません。いや、むしろ宗教は敵視されていますから、完全なフリーハンドでこの手の実験を行うことが可能なのです」
もちろん、中国政府も表向きはこの実験に対して否定的な立場をとっている。認可されていない実験を行ったとして、賀建奎氏は当局に連行された。その消息はいまだ不明のままである。
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