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二十数年たっても/読者のミステリー体験

「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。

選=吉田悠軌

二十数年たっても

富山県 25歳 大田和子

 私の実家は衣料品店を経営していて、お店のお客さんに82歳になるお婆さんがいます。このお婆さんが、ある日、突然、私たちがびっくりするようなことをいいだしました。

「私には死んだ人が見えるんだよ」

 昔、お婆さんの家の筋向かいに夫婦と息子ひとりの3人家族が住んでいたそうです。ところがこの家のご主人が、息子の大学卒業を目前に40代で病死。そのため奥さんは生活のためにテレビの部品を作る内職をしていました。
 ある日、仕上がった部品を奥さん自ら会社に届ける途中で交通事故に遭い、ムチ打ち症になってしまったそうです。
 それが原因かどうかは不明なのですが、それからしばらくして奥さんは病気になり、とうとう首吊り自殺をしてしまいました。

 これらの出来事はすべて、今から二十数年も前のことです。

 でもお婆さんは、なんとその首吊り自殺をした奥さんの姿を、毎日、見ているというではないですか!
 お婆さんの家の道路に面した玄関の並びに、奥さんが首を吊ったという近所の農家の作業小屋があります。

「あの薄暗い小屋の中に、雨の日も、風の日も、毎日、あの奥さんがうずくまっているんだよ」

 その姿は二十数年たった今でも生前とまったく同じだそうで、赤い前かけをしていることまではっきりわかるそうです。
 現れるのはいつと決まっていないらしく、朝でも昼間でも夜でも、とにかくお婆さんがふと気づいて小屋に目をやると、必ずそこにうずくまっているといいます。
 最初に見たのがいつだったのかは、もう覚えていないといっていました。

「そりゃあもちろん最初見たときにはびっくりしたし、怖いと思ったけど、でもそのうちだんだんと慣れてきてね」

 なんとお婆さんは奥さんの霊に向かって、ときどき話しかけたりもするそうです。でも奥さんの霊は何も答えず、お婆さんのほうを見ようともせずに、そのうちスーッと消えてしまうのだそうです。

「お葬式の日は、今、思いだしても恐ろしくなるほどだったよ。雷鳴がとどろいて、稲光がその家を包んでね。まるで神仏が自殺行為を怒っているように思えたものだよ」

 自殺者の霊はその場所に40年間とどまる、という話を聞いたことがありますが、お婆さんの話を聞いていると、あながち噓とも思えません。


(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)

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