ふみきり地蔵/読者のミステリー体験
「ムー」最初期から現在まで続く読者投稿ページ「ミステリー体験」。長い歴史の中から選ばれた作品をここに紹介する。
選=吉田悠軌
ふみきり地蔵
宮城県 39歳 沢田英樹
あれは私が高校2年生のころの出来事です。
私が通っていた高校の通学路には踏み切りがあり、遮断機のすぐ横にはお地蔵様が建立されていました。かつてその踏み切り内で列車事故にあって亡くなられた人がいるとかで、そのお地蔵様も何かそのことと関係するものだったようです。
ある日の午後でした。ひとりで下校中、その踏み切りに差しかかると、なぜかお地蔵様の頭部が地面に落ちていました。
お地蔵様をそのままにしてはいけないと思い、落ちていた頭部をすぐに拾いあげて、もとのように胴体の上に乗せました。
その後、いつものように踏み切りをわたり、20メートルほど歩いたころでした。線路の反対側にふだんいつもいっしょに下校している同級生の姿が見えました。
足を止め、その同級生に声をかけました。相手も私のほうを見て何かいっているようでしたが、なぜか何をいっているのかまったく声が聞こえません。
私と彼とは距離がそんなに離れているわけではありませんでした。大きな声を出さなくても、十分に話ができるくらいの距離です。
不思議に思いながらもしかたなく目の前の線路を横切り、彼のほうに行こうと思いました。そして線路の脇の砂利石を踏んだそのとたんでした。
突然、自分の近くでピーッという大きな警笛が鳴りひびき、ハッとわれに返ると──なんとすぐそばまで特急列車が迫っていたのです‼
あわてて線路内から逃げましたが、それはまさに危機一髪。ほんの数秒、気がつくのが遅れていたら、間違いなくあのとき私はあの列車にはねられていたでしょう。
しかし私は踏み切りの遮断機の警報音や列車の近づく音はまったく聞こえていなかったのです。
線路の向こう側にいた同級生も、
「危ないから来るな!」
と、何度も大声で叫んだそうです。しかし私にはその声が聞こえていませんでした。
落ちていたお地蔵様の首を直したあと同級生の姿を見つけて線路を横切ろうとしたその瞬間まで、私の耳がどうにかなってしまっていたのでしょうか。それともほかに何か理由が……?
思いあたることといえば、そんなことになる直前、地面に落ちていたお地蔵様の首をもとどおりにしてあげたことだけです。単純にいいことをしたと思っていたのですが、よけいなことをしてしまったのでしょうか?
(ムー実話怪談「恐」選集 選=吉田悠軌)
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