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思い出せない禁忌/西浦和也の裏話怪談

内輪の話、内部事情、だれもがひとつくらいは抱えている「裏話」。
つい話したくなるけれど、もしそれが命に関わる禁忌だったら……。
今回はそんなタブーにまつわる裏話怪談を、一題。

文=西浦和也 #裏話怪談
イラストレーション=北原功士

思い出せない禁忌

 あなたは円形校舎をご存じだろうか? 太平洋戦争直後の1950年代を中心に、全国に100を超えるほど建てられた学校の建築様式だ。
 建物は円柱状に作られ、その多くは3階から4階建。建物の外壁は、外からの光を効率よく取り込むため、全面窓ガラスになっている。中心部には上へと向かう大きな螺旋階段を設置。その螺旋階段を廊下が取り囲む、回廊造りになっている。

「俺さあ、昔、ちょっとグレてて、夜中に火事を出して怒られたことあるんだよね」
 今から10年ほど前、ドライブデート中にM子さんの彼がいきなり話しはじめた。当時は付きあいはじめたばかりのころ。おそらくヤンチャな武勇伝で、格好をつけたいのだろう。でも火事とはあまり穏便ではない。
「だれも火なんか使ってないんだぜ。でも、火事になったんだよ」
 中学生のころ、彼の住む街のはずれには、廃校になった円形校舎があった。校舎は使われなくなって十数年がたっており、風雨のため窓ガラスは割れ、吹き込んだ雨や雪のせいで、建物はかなり傷んでいた。加えて、町外れの人のこない場所にあったこともあり、当時ヤンチャな中学生には、うってつけのたまり場で、彼もそこに毎晩のように集まっては、夜中まで騒いでいたという。

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