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わたしはできそこないです

 2歳離れた弟が以前失踪したことがある。すぐに見つかり、そこまで大ごとにならなかったということをその後しばらく経ってから知った。

 「むんむんみたいじゃなくてごめんね。」

 実家に連れ戻された弟はそういったそうだ。そのことを祖母はよくわたしに言う。弟はわたしに引け目を感じているんだと。

 わたしは運が良く学校という環境にはびっくりするほど適応できたくちなので成績はずっと上位だったし生活態度も指摘されたことがなかった。当たり障りがなく勉強ができることは先生にとって優秀な生徒である環境では、わたしはずっと優秀な生徒として過ごすことができた。

 対して弟はそんな環境にあまり適応することができず、先生から指摘をされることが多かったと思う。当時小学4年生だった弟に担任の先生は「むんむんさんの弟とは思えないですね」といったそうだ。そのことを母も弟もずっと引きずっていた。

 運よく学校という環境に適応できた“優秀な”姉と運悪く環境に適応できなかった弟。今も、ずっと弟はそのことに傷つけられ苦しめられているのだ。

 先日、弟はまた失踪しそうになった。今回もすぐに見つかって何事もなかったのだが、この先もまた起きるのではないかという不安はわたしたち家族は思っている。
 その出来事を祖母から聞いたのだが、祖母はまた「むんむんみたいじゃなくてごめんねって言っていたんだよ」と泣きながら言った。わたしはどう返答していいかわからなかった。

 社会に出てからわたしはこてんぱんにやられて社会に適応できないでいる。そんな様子を弟は知っているのだろうか。それを知って未だ「むんむんじゃなくてごめんね」というならそれは違うと言いたい。
 わたしはどうしようもなくて社会に適応できないできそこないです、と伝えたい。ただ学校や勉強という環境にあっただけで、すごくできる人間ではないと。

 弟が苦しんでいると知って、わたしは自信がなくなった。そんな弟にわたしはかけるべき言葉が見つからないしどんな行動をしたら良いかわからなくなった。
 わたしは弟と相談し合う、助け合うということをしたことがない。同じ家に住んでいたがお互いに興味のないような感じで深く関わることがなかった。

 これから弟と支え合えるような姉弟になることはないだろうと思う。けれどわたしに対しての引け目は感じなくて良いということは伝えたい。
 突っぱねて受け取ろうとしないだろうけれど、わたしは伝えたい。

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