見出し画像

リスキリングして「FA宣言」、未来のキャリアの選択肢を増やそう

1. リスキリング環境が整い始めた日本


2022年、日本におけるリスキリング環境が急速に整い始めており、国策としてのリスキリング支援策を始め、企業内における取り組みも活発になってきています。以下、大規模な官民連携の取り組みについてご紹介します。

1) 人的資本経営コンソーシアム


先週8月25日「人的資本経営コンソーシアム」が発足しました。「人への投資」を推進する協議会として320社が参加を表明しています。

発起人としては以下の組織や企業の代表者、経営者が名を連ね、経済産業省と金融庁が支援をしています。

伊藤 邦雄氏【発起人代表】
 一橋大学CFO教育研究センター長
磯崎 功典氏
 キリンホールディングス株式会社 代表取締役社長
北村 吉弘氏
 株式会社リクルート 代表取締役社長
櫻田 謙悟氏
 SOMPOホールディングス株式会社 グループCEO
 取締役代表執行役会長
東原 敏昭氏
 株式会社日立製作所 取締役会長 代表執行役
吉田 憲一郎氏
 ソニーグループ株式会社 代表執行役 会長 兼 社長 CEO
菅野 暁氏
 アセットマネジメントOne株式会社 取締役社長

この取り組みは、企業が考える人への投資や経営の観点からリスキリングの支援体制が作られてゆくものと考えています。

2) 日本リスキリングコンソーシアム


一方で、働く個人向けにリスキリングを支援する取り組みも2022年6月16日に発表されています。国や地方自治体、企業など49の参画団体(発表当時) からなる「日本リスキリングコンソーシアム」が設立され、主幹事はグーグル合同会社が務め、総務省と経済産業省が後援をしています。

アメリカをはじめとしたデジタル先進諸国では、リスキリングに対する議論や取り組みが本格的に始まったのは2016年頃でしたので、日本は約5年遅れている状態です。一般的に日本はゼロイチで新しい価値を生み出す初動が遅い印象ですが、やるとなると一気に徹底して仕組み化が進むので、こうした取り組みにとても期待しています。

2.リスキリングに対する認知度も上昇中


2018年に僕がリスキリングを日本で広める活動を開始したときには、残念ながら国にも企業にもリスキリングの価値を理解をしてもらえませんでした。ところが、2020年、新型コロナウィルス感染症によりビジネスモデル変革を余儀なくされたことで、社会全体でデジタル化のニーズが高まり、リスキリングに注目が集まるようになってきました。

※リスキリングの日本における普及の歴史については、以下をご参照下さい。

株式会社UZUZが実施した「20代若者への『転職』と『リスキリング』に関する意識調査」において、既卒・第二新卒で、リスキリングに興味ある人の割合は、約75%を超える結果となっています。

株式会社UZUZウェブサイトより引用

ただし、どのように取り組んでいるかという質問項目については、86.9%の方が個人でリスキリングに取り組んでいる
という結果が出ています。

国や企業のリスキリングに対する支援策は始まってきていますが、まだまだ日本では自分のキャリアを自ら構築してゆくことに意欲の高い個人がリスキリングに取り組んでいるのが実態であることが推察されます。

3.今後、個人にどのような選択肢があるのか?

前述のデータにあるように、リスキリングに高い関心を持ち、リスキリングを実践したい方々はこれからどのようなステップで進めてゆくと良いかを考えてみます。

1)利用可能なリスキリング環境は全て使う


働く個人の視点で考えた場合、前述の人的資本経営コンソーシアムのような企業視点で提供されるリスキリングの環境を大いに利用すべきだと思います。例えば、下記②のような兼業や副業を含む、企業間におけるリスキリングを目的とした人材の交流を経て、新たな価値を自社に持ち帰ることで新たな事業を創出するチャンスに恵まれたりする可能性もあるかもしれません。

ただし、例えばデジタルトランスフォーメーションの実現が至上命題の会社において、デジタル化に出遅れている企業間で人材交流を行っても、デジタルスキルを身につけるリスキリングという観点では、大きな成果が望めない可能性もあります。

そして現在の勤務先にリスキリング環境がない方や、転職を前提にリスキリングをされたい方は、前述の日本リスキリングコンソーシアムのような、個人向けのプラットフォームを最大限活用することができます。ただし、就業時間内にリスキリングが認められている会社を除き、恐らくほとんどの方々は、帰宅後や週末に自主的にリスキリングを行わなくてはいけない可能性があります。

リスキリングを継続し、新しく学んだことを生かすチャンスが現在の勤務先にあれば良いのですが、それが望めない場合には、トレーニングプログラム受講者と企業をつなぐジョブマッチングのサービスを利用して、転職を検討する必要も出てくるかもしれません。

身の回りにあるあらゆる支援策を活用して、自分自身のリスキリングを推し進めてゆくことが大切です。

2)リスキリングを開始し、評価される人材へ〜



リスキリングを実践し、新たなスキルを自ら獲得してゆくことに意欲的な人材は、市場価値も高く、大きな選択肢が今後広がってゆくと考えられます。以前、リスキリングの成功体験を持っている方の7つの能力について書きましたので詳細は以下をご覧下さい。


3)リスキリングによる昇給昇格を実現する


リスキリングを継続し、例えばデジタル分野のスキルを身につけることで、人材としての市場価値も上がり、昇給や昇格のチャンスも広がります。

6月末時点の転職時の年収は全職種の平均と比較すると14%増で75万円高い。業種別では「流通・小売り」が最も高く同約200万円の差がある。デジタルトランスフォーメーション(DX)の緊急性が高い業種ほど高給を支払う傾向があり、給与格差は今後も広がりそうだ

2022年8月30日 日本経済新聞より引用

優秀な人材には2,000万円近い給与を提示する事例も出てきているとのことです。

4) 「FA宣言」の権利行使ができるレベルを目指す


プロ野球においては、実績を残し続けた選手は、FA宣言を行う権利を得た後に実際にFA宣言することで、自分の所属するチームからの評価、年俸、その他待遇と、他のチームからの評価を比較することができます。その上で、残留か、移籍を選択することが可能になります。

働く僕たち個人も、これからリスキリングをしてゆくことで、新たなスキルを身につけ、人材としての市場価値を上げることで、社内の自分に対する処遇と、他社からのオファーを比較可能になるのではないかと考えています。リスキリングに成功し、現在の会社に残りたいものの給与や働き方に不満がある場合は、残留のための条件交渉ができるようになるのではないでしょうか。

「一律の人事制度だから、君だけを優遇できないんだよ」

という、今までと同様の回答が返ってくるのであれば、FA宣言して、社外で正当な評価をしてくれる会社に転職することも視野に入れて良いのではないかと思います。こうした事態が続けば、残念ですが、自らリスキリングし続ける優秀なスタッフが流出し続ける事態を招きます。日本企業にとって、リスキリングを開始することは、諸刃の剣です。昇給昇格等、優秀なスタッフを魅了し続け、引き止めるための策がなければ、社外流出を促進する可能性も大きくなります。

5) リスキリングを成功させ、未来の選択肢を増やす


VUCAの時代の渦中にいる僕たちは、未来に向けてどれだけ外部環境の変化に対応できる選択肢を持てるか、がこれからとても重要になってくると思います。特に働き方のオプション、例えば、勤務地の自由、リモートワークの可不可、兼業副業含めた社外との関わり方等、複数の選択肢を持つことができれば、いざというときにリスクを回避できる可能性も高くなります。

そのためにも、僕たち働く個人、1人ひとりがリスキリングを行い、社内でも社外でも評価されるスキルを身につけることで自らの市場価値を高め、FA宣言ができる立場になること。そして、社内への残留か、社外への転職を決断するかについては、働く個人が自分で選べるようになることが理想的だと考えています。

やりがい、同僚、給与、働き方、様々な観点から、社内に残留した場合の環境と、新たにオファーされる社外のポジションを比較できるようになれば、個人が自分の未来のキャリアの選択肢を複数持てるようになります。

リスキリングして「FA宣言」できるような人材に、そして未来のキャリアの選択肢を増やすことができれば、より満足度の高いキャリアを築いてゆくことができるのではないでしょうか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?