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生産現場と一緒に作るといいモノができる

アーティストやクリエイターが頭の中に思い描いたものを、職人さんや工場さんが形にしていく。「モノづくり」の流れは【クリエイター→職人・工場】と、この方向に流れていると考えている人は多いかもしれません。しかしファッションデザイナーの村松啓市さんにお話を伺うと、村松さんの考える「プロダクトデザイン」は「モノづくり」でありながらもこの流れが逆になることが、しばしばあるようです。村松さんの強みの1つは、この「プロダクトデザイン」の中で最高の製品を作り出すための豊富な知識と経験をもっていることなのだとわかりました。

こんにちは、記者のカミュです。連載「村松啓市の仕事」では、世界で活躍するデザイナーの村松啓市さんの魅力や、その作品について、ご紹介しています。今回のテーマは「生産現場と一緒に作るモノづくり」です。

■最後のシーズンのデザインに込めた想い

2019年の秋から、村松さんが15年間続けてきたファッションブランド「everlasting sprout」は「muuc(ムーク)」と名前を変えて、新しいスタートを切りました。「muuc」については、村松さんのnote内に別マガジン「muucからの手紙」がありますので、ここには詳しくは書きませんが、ご興味のある方はこちらをぜひご覧ください。

世界的にもめずらしい「ニットの専門家」として活躍されている村松さんが、もう1つ「糸の表現」という部分で得意としているのが「刺繍」を使ったデザインです。

現在、ブランド「everlasting sprout」として最後のシーズンの秋冬のお洋服が販売されていますが、この中にも刺繍を使った村松さんらしい素晴らしいデザインのものがあります。それが「撫菜(なずな)刺繍」のシリーズです。

とりあえず、実際のデザインをご覧ください。

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「ナズナ」(別名「ぺんぺん草」とも呼ばれています)は白く繊細な花を咲かせます。その美しい花をハンド刺繍で表現するために、村松さんは実際に手を動かして刺繍を繰り返しながら、試行錯誤をされたそうです。

刺繍糸にはアクリルウール素材の糸を使用することで、ふっくらとした凹凸が出るようにしたということでした。下の写真から、刺繍の部分がかなりふんわりと盛り上がっていのがおわかりいただけるのではないかと思います。

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フレアーのシルエットの服に、この刺繍が縦にストライプに入ることで、着用したときの柄の動きを楽しんでほしい、ということでした。

「everlasting sprout」としての最後のシーズンのお洋服にふさわしい、村松さんらしいデザインの、とても素晴らしいラインナップだなと思いました。村松さんに伺った話をここまでで終わりにしてしまうと、この記事はただの商品紹介になってしまいますが(笑)今回の話の本題はここからです。実は、私がイメージしていたファッションデザイナーのお仕事に対する勘違いが、ここからの話の展開を大きく変えていくことになりました。

■取材中の行き違いからわかった村松さんの仕事の本質

「撫菜刺繍」のシリーズについて、その技術的な背景やデザインへの想いなどを伺おうと村松さんに取材を開始したのですが、今回はいつもと違ってどうも話が噛み合っていきませんでした。

やり取りの一部をそのままご紹介すると、このような感じでした。

どうして今回はナズナのデザインだったんですか?
–––今回に関しては、大きな理由はありませんでした。ナズナって、なんか楽しいし可愛いし、日常を素敵なテキスタイルに閉じ込められたら素敵かな、って感じです。

刺繍にしやすい植物とかしづらい植物ってあるんですか?(ナズナは刺繍で表現しやすいからやろうと思ったとか、逆に刺繍にしづらいから挑戦したかったとか、はあったんですか?)
–––あると思いますが、今回のナズナに関しては、生物学的な表現をしたかったとか、そういうわけではないので、今回のような場合はある種、抽象的な感覚で刺繍やテキスタイルにしていますよ。手を動かしながら、刺繍の糸の動きや、図案を探っていく感じですね。

今回の刺繍糸にはアクリルウール素材の糸を使用されていますが、何か特別な表現やこだわりがあったんですか?
–––あまり一般的には刺繍に使用しないかもしれませんが、この糸を使って特別なことをしよう、ということではありませんでした。ただ、どちらかというとニットに使用するような、風合いが良く少し太めの糸なので、ふっくらとした印象になって、今回のようなきれいな印象の生地にあえて手刺繍のような優しさを合わせるという意味では、いい糸だと思います。

生地は東レさんが特許をもっている特別な生地を使っていますよね?これはそのような依頼があったからですか?
–––いえいえ、偶然この生地を見つけて、良い!と思ったからですよ。

刺繍を縦にストライプのように入れているのには、何か秘密があるんですか?
–––秘密と言うほどのことは何もないです(笑)ただ、日常的な雑草?のようなナズナをクラシックな雰囲気の図案に落とし込むときに、ある法則の中でリピートさせてあげたほうがカッチリした印象になるかな、と思ったんです。

なんとなく、このやり取りで起こっている行き違いを感じていただけたでしょうか?

私は、村松さんの頭の中には、今回の「撫菜刺繍」を作るに当たって、何か具体的に思い描いているコンセプトのようなものが当然あるのだと思っていました。アーティストやクリエイターが頭の中に思い描いたものを、職人さんや工場さんが形にしていく……「モノづくり」の流れは常にこの方向で、その大元の部分の話を村松さんから聞き出そうとしていたんです。

しかし、そもそも「プロダクトデザイン」というのは、必ずしもこの流れで製品が作られるわけではありませんし、むしろこれとは逆の流れで「モノづくり」ができることが、最高の製品を生み出すことがあるのです。村松さんはそれを強みとしてもっているデザイナーさんだとも言えるので、ここでの話がどうも噛み合わなくなってしまった、ということだったんです。

つまり、私の頭の中では【クリエイター→職人・工場】、でも村松さんの「モノづくり」はこの流れだけではなく逆方向の【職人・工場→クリエイター】もあるということだったんです。

■生産現場と一緒に作るといいモノができる

アーティストやクリエイターの要望に応えて、それを形にするだけの技術力をもっている職人さんや工場さんと組んで「モノづくり」をしていくという発想では、これからの時代、「いいプロダクト」を作っていくには限界があると村松さんはお話しされていました。

そう言うとなんだか少し大げさな気もしますが、「私自身がそうだ」という感じです。自分のデザインやエゴありきで制作物を進めることは、私の場合はあまりないんです。(あっ!でも、場合によっては程よくデザイナーのエゴも入れるかも。。。笑)

「デザイン」する上で、デザイナーの「自己実現」がそこに入ってしまうのは、ある意味当たり前のことだと、私は無意識のうちに受け止めていたような気がします。でも、村松さんのおっしゃる「プロダクトデザインに関しては別」というお話も、とても驚いたのですが、納得できるものがありました。

私たちのやっていることは、基本的には「作ってくださる相手あってのモノ」なので、相手に合わせて制作するんですよね。お願いする職人さんや工場さん、クリエイターさんの感覚や技術を最大限に活かせて、最大限に力を発揮してもらえるところを頼むということです。そうすることで、品質や価格面で、お客様にとっても良いものをお届けできます。今は、デザイナーでも工場に足を運んでプロダクトを作っている人も多くなっていると聞きますが、私がデザイナーとしての活動を始めた頃は「そんなデザイナーはほとんどいない」とよく工場さんからお聞きしました。私はデザイナーとして、学生の頃から「才能が無い」と評価されることが多いポジションにいましたから(笑)だからその分「汗をかこう」「足で稼ごう」と思っていたので、いつも工場さんのところに通っていました。そして、工場さんに「いろいろ教えてもらいながら」デザインすることを学んだんです。「プロダクトデザイン」をする上で、新しいものを生み出そうと思っても、私一人の頭の中だけでそれができるなんてことはありません。一緒に服を制作してくださる工場さんの得意なことを知って、技術を教えてもらって、何をどうお願いすれば一番力を発揮できて、その上で自分たちらしさを表現するにはどうすればいいかを考える、これが私が考える「プロダクトデザイン」のやり方のひとつ、という認識です。

私からすると、目からウロコの「モノづくり」の話でした。デザイナーさんは「モノづくり」の中の言わば上流過程の作業を担っていて、ある意味トップダウン式に製造現場を動かしているような印象をもっていました。でも最後の村松さんの言葉が、「プロダクトデザイン」をする上で、最も大切にしなければならないことはデザイナーの頭の中にあるものではないということがわかりました。

工場さんありきってことですね。

今回も、とてもいいお話を伺えたなと思いました。

(記者:カミュ)


今回も村松さんからとてもいいお話を伺えたので、最後に私から1つ、インフォメーションを入れさせてください!(笑)今回の記事でご紹介した村松さんのブランド「everlasting sprout」の最後のシーズンとなる今年の秋冬の「撫菜刺繍」のシリーズは、すでに売り切れてしまったものもあるのですが、販売されているものがまだいくつかあります。以下、在庫のある商品8点の一覧を掲載しておきますので、ご興味のある方はお早めにどうぞ。。。


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