気をつけるのは貴様だ
わたしは、新卒で入社した職場を、1年と少しで辞めた。
理由はセクハラだ。
例えば、飲み会の席で脚を触られたり。
コピーを取っていたら肩を組まれて『かわいいね』と耳元で囁かれたり。
『彼氏と最後にセックスしたのいつ?オレいまムラムラしてんだよね』と夜中に電話がかかってきたり。これは想像だけど、たぶん相手はオナニーしていた(もし想像が当たっていたとしたら、ハラスメントのレベルは超えているような気がする)。
挙げればキリのないハラスメントが、日常茶飯事だった。
恥ずかしながら、わたしは当初それらをセクハラだと思っていなかった。
親のスネをかじってまで福祉の勉強を、人権に関する議論を4年間もしたのに、
職場の男性からされることをセクハラだと思わなかった。あまつさえ、受け流せる自分を“強い”とか“コミュニケーション能力がある”と最低な勘違いもしていた。
その職場は公的機関で、いわゆるお堅い職場だった。内定をもらった時は嬉しかったし、公務員という社会的な地位の低くない仕事に就けた満足感もあった。
それでも『辞めなきゃ』と思ったのは、後輩が出来たからだ。
2年目の春、後輩が出来て、その中でも仲良くなって、よくランチに行くようになった女の子がいた。
わたしはその子に、親切心のつもりで『あのオジサンは飲み会で隣になると距離近いよ』とか『あのひとはLINE教えると毎日メッセージ来るよ』『給湯室で2人になると肩組んでくるからね』と、気をつけた方がいい人について話した。
彼女はとてもいい子で、うんうんとわたしの話を聞いて『気をつけます!!』と言った。
その答えを聞いて、ふと思った。
気をつけるのは彼女なのか??
気をつけるのは間違いなくわたしや彼女じゃなくて、あのオッサンたちだよな??と。
なんで、気をつけるのがこの子なんだろう。
なんで、あたしはこの子に気をつけさせようとしてるのだろう。
なんで、あたしは今まで気をつけなきゃいけなかったんだろう。
その時やっと、わたしは自分がセクハラを受けていたこと、オジサンたちを上手に受け流せているというのは勘違いで、実は相手を付け上がらせる最低の対応をしていたことに気づいた。
気づいて怖くなった。
あたしはここにいちゃいけない。
我慢しちゃいけない。
気づけば学生時代に取った福祉の資格を頼りに求人を漁り、面接をして、いまの職場にいる。
正直、公務員の待遇を捨てたことは惜しい。
福祉の仕事は激務で、そのわりには待遇が良くない。やりがいがなければ明日にでも逃げ出すと思う。
それでも、わたしは後悔していない。
泣き寝入りを続けて口角の下がった生活をするくらいなら、清く貧しく自分に素直にいたいのだ。
いい話っぽくしてみたが、
実は正攻法て会社のセクハラ相談窓口に訴えたら、門前払いされたうえに会社中に言いふらされて立場がなくなり、逃げるように退職したのだ。
考えてみれば、この期に及んでセクハラがなくなっていない会社に自浄機能がついているはずもなかった。助けてもらえると期待したわたしもアホだった。
まあ、いま幸せなのでそれでいいし、
セクハラを受けている女の子は売り手市場のうちに転職しようぜ
辞めんのマジしんどいけど結構なんとかなるよ