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人と自分との価値観を見直す映画

 「ハッピー・オールド・イヤー」は10月に東京の映画館でリーフレットを見つけ、何が何でも観てやろう!と決心した作品である。やっと出会えた、、。やっと新年あけましておめでとうな訳である。カメラやクマの人形、Tシャツやレコードなどキャッチーなデザインのど真ん中に何とも言えない顔の主人公が現実的な黒のごみ袋を持っている様子がとても良い。その横には「ひとの気持ちは、簡単には仕分けられません。」の文字。これは観たら掃除したくなる~なんて単純な感情が生まれるただの日常映画ではなさそうだ、と私の映画センサーがビビッと反応したのである。また、NEWではなくてOLDなところがとても良い。新しいものではなく古い何かを快く受け入れること。簡単そうに思えて難しいこの問題を主人公が人間らしさを徐々にさらけ出しながら解決しようとする様子を見ていると、「あれ、もしかして他人事じゃない?」と気づくかもしれない。誰もが主人公のジーンであり、彼女を取り巻く人々なのである。

山盛りになった黒いごみ袋

 過去を捨て、未来の理想を手に入れようと決心したジーンがスーパーで山のようにごみ袋を買っていくシーン。そんなに必要??と感じたものの彼女にとって捨てたい過去、無かったことにしたい過去はこのごみ袋以上にあったのである。実際断捨離を始めると、そのごみ袋はすべて使われ足りないという始末。しかし彼女の表情は全く冴えない。普通はすっきりしたあと達成感を感じるはずなのに。黒いごみ袋は中身が見えないから良いと言って過去の出来事を無かったことにしようとしていたにもかかわらず、一つ一つ中身を取り出してしまうジーンの自分に素直になれないところに共感する人たちは多いかもしれない。

現代の需要と忘れてはいけないもの

 兄が買おうとした本に対して「pdfでダウンロードしてよ」と突き放したり、CDたちをポンポンと勢いよく捨て、「CDでなんてもう聴かない」と言ってみたり。彼女の言動はとても現代的であり今の若者の感性の象徴であると思う。実際、どんどん進化していく世の中でそれらは需要のないものとして切り捨てられているだろう。でもそんな彼女が失おうとしていたものの中に人の思いやりや温かさという「感情」があることを忘れてはいけない。誰かが大切にしていたものや自分を大切にしてくれる人がくれたもの。山のようにある「モノ」の中で彼女は一つずつに感情があるということに気づいていくのである。感情が入るとめんどくさいと言ってたジーンが、自分の感情に翻弄されていく様子がとても面白くまたがんばれと励ましたくなってしまう。

人の価値観について

 主人公のジーンは、シンプルに言うと人のことを考えない「自分勝手でわがままな」キャラクターである。でも、もしかすると私たち自身もそうなのかもしれない。自分の物差しで相手を測り、他人に伝わらないとなぜわかってくれないのかと落ち込む。それは実際自分の価値観を相手に押し付けているのと一緒なのである。自分と同じ人間なんて存在しない、ジーンのように自分がいいと思って放置していた過去も向き合ってみると相手にとってはすごく重要な人生の一部かもしれないのだ。ジーンは断捨離することで初めて自分に向き合うということを始めた。私たちも改めて自分に向き合ってみると気づくことがあるかもしれない。

シンプルでミニマルなセンス

 スウェーデンに留学し、シンプルイズベストな世界観を学んできたジーンは恰好も白シャツにパンツと至ってシンプルなスタイルである。髪型も黒髪でばっさりと短めに揃えており、坊主で派手なデザインのシャツをいつも身に着けている友人のピンクとはいたって真逆である。そんな彼女を「ハイセンスなんだな」と思わせるもの。それは彼女の使っているアクセサリーではないかなと思う。常にシルバーのアクセサリーを身に着けた彼女はやはり周りよりスタイリッシュでどこかあか抜けた印象である。また彼女の机の上にあった化粧品ブランドはナチュラル自然派でお馴染みの「Aesop」ではないか、、。細かいところまでシンプルに気を抜かない、さすがミニマルライフを理想とするジーンらしい。

コロナ禍で変わる人間関係

 今回この映画を観て、私は自分がコロナ禍で周囲の人間の断捨離をしたなと気づいた。会いたい人と気やすく会うことが出来ない現在で、私が必要としている人は誰だろう。会いたいと感じる人はどのくらいいるだろう。そう考えたときに、流れでだらだらと付き合っていた人たちとは自ずと連絡を取らなくなってしまった。でもそれでいいのだ。また、何か機会があったら付き合い始めるかもしれないけれどそれまでは今いる周囲の人たちを大切にしたいと思う。自分の価値観を押し付けずにシンプルに、自然な付き合いがこれからも出来るといいな。


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