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真っ黒リンダ

2021.01.22

リンダに出会ったのは、アッシジに滞在してから1ヶ月も半ばを過ぎようとした頃でした。

アッシジという町は不思議な場所で、町自体はとても小さいのに、

一度では見逃してしまうことやモノや人がたくさんあります。

だから毎日同じ道を通っても、日々新しい発見があって、その度に驚かされます。

リンダもそんなことやモノや人の一つでした。

最初にリンダに会った時、彼女はサンルフィーノ教会(アッシジの守護聖人)

からすぐ側の

「いつも悲しいエンリコおじさん」

の陶器雑貨店の前で腹這いになって寝転んでいました。

(※「いつも悲しいエンリコおじさん」については、またの機会にお話ししたいと思います。)

なんなんだろう?あの物体は。

先週ここを通った時にはいなかったのに、

と思って近づいてみると、

全身真っ黒な生き物がピクリともせずに上目遣いでこちらをじっと見ていました。

ええ〜!生き物だった!

真っ黒な犬!?

まっくろくろすけと言うぐらい真っ黒です。

アッシジの町の建築物は

スバシオ山で採掘される凝灰岩と言う石が原材料なので、

町全体がサーモンピンクのような色で覆われています。

そこに突如として登場する真っ黒なリンダは、

異世界から現れた不思議な動物みたいで、

とても異様でミステリアスな雰囲気を放っていました。

リンダがいつも寝転んでいる場所はというと、

細い路地を登りきって、その曲がり角を曲がると目の前に美しい

サンルフィーノ教会があともう少しに迫っている場所です。

あともう少し、あともう少しでこのきつい坂を登りきった果てに

サンルフィーノ教会が見える!ワクワク!

という、言わばもう少しでクライマックスを迎えそうな場面で、

「なんでなん???」

と言うタイミングで突如として真っ黒な姿を現すのがリンダです。

当然、観光客たちも突然現れたリンダの姿を目にすると、

皆一様に少しびっくりしたような顔をします。

でも、リンダ自身はいつでも平気のへっちゃらで

「何か?」みたいな態度でクール・ビューティー然としています。

たまにそこらへんの店の

「いつも悲しいエンリコおじさん」や

「いつもカオスなパルマおばさん」に

「あ〜!!あんた邪魔!!」て言われてどかされたりもしますが。

(※「いつもカオスなパルマおばさん」についても、またの機会にお話ししたいと思います。)


リンダはアッシジの住民らしく、

観光客の扱い方をきちんと心得ています。

リンダの朝は早く、

アッシジの丘の中腹にある彼女の家から、

丘のてっぺんにある町の中心部へと到着するとすぐに

リンダの勤務時間はスタートします。

朝9時からお昼までの間は、

言わばリンダの出血大サービスの

「黄金の時間」です。

観光客が

「かわいい〜💓あの犬〜」と近づいていくと

腹這いの状態から自らクルンと

ひっくり返ってお腹を見せて

「撫でたければどうぞ」

と言う姿勢を見せたら仕事開始の合図です。

背中を撫でたら次はお腹。

あとはハンバーグをフライパンの上でひっくり返す時みたいに

正確に、忠実にその動作を繰り返します。

バタン、クルン。バタン、クルン。バタン、クルン。

豊かな毛並みが美しくて、思慮深そうなリンダに

私は完全にノックアウトされてしまいました。

彼女の姿を見るといつもとてもウキウキした気分になりますし、

「リンダ」という名前もなんとも可愛らしく、

何度も呼んでしまいそうになります。

そんなアイドルのリンダですが、

オンとオフの切り替えはかなりはっきりしています。

ある日の昼下がりに、

たった一人で

ルンタッタ〜ルンタッタ〜♪

とスキップしているリンダの後ろ姿を見つけたので、

思わず「あ!リンダ!」と呼んでみたところ、

振り向いたリンダの目は真剣で

「今は一人になりたいの」と言われました。

(言われた気分になりました)


今年は、来年は、またアッシジの町でリンダに会えるかなあ。

いつか、リンダみたいに感情に束縛されずに、怖がらずに

人生を謳歌してみたいな。

いつもリンダのことを思い出すとそう勇気づけられます。

ちなみに、この2年後の一昨年にアッシジを訪れた際にリンダに挨拶すると

ガン無視されました。

それでこそ、クール・ビューティー・・・



「なんかくれろ」という魂胆を持ちながら、

ボーイの男の子たちを待つリンダ

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依然として腹が減っておるリンダ

リンダ2


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