見出し画像

輪廻の蛇、生命の果実

「何も生み出せぬ野蛮なる<死肉喰らい>共が、恥を知れ!」
全身から緑色の棘を生やした怪人が侮蔑を込めて叫ぶ。

「恥を知るべきは貴様らだ、食物連鎖の理を外れた光合成バイオカルティスト」
ビル壁の突起に足を掛け冷徹に返す男もまた、人間離れした爬虫類の如き瞳と長い尾を備える。

「非光合成者の蛮族が恥を語るか!」
有棘の怪人が木の枝の如き右腕を突き出す。松脂じみた粘液射出!
爬虫類男は横跳びしジグザグ壁面四足走行回避!

《ツキモリ、状況は》
《針葉樹の特性を持つ植物カルティスト一。アラカ、増援を》
《了解》

「甘いぞ!」
針葉樹男が左腕を突き出す!ツキモリの尾に松脂が命中、壁面に貼り付き瞬く間に硬化!
「非光合成者など……何!?」

針葉樹男の体が突如宙に浮く。そのまま背後の廃材に叩き付けられ、不可視の何かが首筋を締め上げ……!
そして葉緑体混じりの体液を撒き散らし首が落ちた。
「甘いわね」
その上には四本の節足副腕を備えた女の影。


急激に進歩したバイオ技術は人体への遺伝子導入を可能にした。その技術が植物狂信カルトの手に渡ったのが全ての発端だ。
彼らは自らに植物の能力を導入し、摂食で栄養を得る非光合成存在を敵視した。
それに対抗すべく動物の能力を導入したバイオエージェントが組織された……!


――二時間後、廃工場。


「そう、シダースは死んだの……大丈夫、探索任務は私が引き継ぐ」
何者かと通信している女は野苺の特徴を備えた植物カルティストだ。
彼女が通信を終え踵を返すと同時に通気口の格子ががたり、と落ちた。

「何者!?」

「あたしその話ぜぇんぶ聞いちゃった」
女の声。
耳元まで裂けた口、通気口から這い出るは長大な蛇体!

「<死肉喰らい>にあれを渡す訳にはいかないわ」

「あんた、本当は何にも掴んでないんでしょう?」

「……何故わかったの」

「この話は秘密にしてあげる、そのかわり」
蛇女が舌なめずりする。

「あんたの<生命の果実>探索に付き合わせなさい」



【続く】

スキするとお姉さんの秘密や海の神秘のメッセージが聞けたりするわよ。