通りすがりの魚屋さん【第3話】
「死にさらせオラーッ!!」悪趣味なスーツに身を包んだ偉丈夫が殺意を剥き出しに刀を振るう!
「ルリャーッ!」「グアーッ!?」
だが怖ろしくも神秘的なシャウトと共に偉丈夫の手首は切り裂かれ、刀は彼の手を離れて宙を舞い床板に突き刺さった!
レイピアめいた鋭い一撃だ。
「貴様アアアッ!!!!」偉丈夫は無傷の左手で殴りかかる!
そこに既に相手の姿は無い……後ろだ!
「ルリャーッ!!」「ギャアアアーッ!?」
再び怖ろしくも神秘的なシャウトが響き渡ると共に、偉丈夫の両アキレス腱切断!倒れ込み無様に床と接吻する偉丈夫。
その姿を見やるは、白波めいて薄く透き通ったヴェールを纏う浮世離れした風貌の女性の姿。
なぜこのような事になったのか?少し時を遡らねばなるまい。
――――――――――――
とある町で。
「魚ー、魚ー、ぴちぴち新鮮なお魚よー」
台車を引きながら魚を売る露出度の高い女性の姿があった。清水のように蒼く輝く髪と神秘的な紅い瞳が美しい。
彼女の売る魚は常に新鮮で、町の住民にも人気があった。
「イセエビ4匹ちょうだい」「2匹で十分でしょ?」「うちのプログラマ仲間でパーティーやるの」「4匹ね」
顔なじみになった女性客と談笑していたそんな矢先、町に魔の手が!
「コンピュータウイルス作成で逮捕コラー!!」「証拠揃ってオラー!!」
プログラマらしき若い男を揃いの警察カスタム黒服の男が半ダース程で囲んで警棒で叩き、恫喝しているのである!住居からはコンピュータや周辺機器、書類などが運び出されている!恐怖!逃げ出す通行人!
「えっ、あの子が何で逮捕!」「ウイルス作成!?何かの間違いだ!!」「「「お前も共犯かッコラー!?」」」
「ちょっと、これってどういう事なの?」
「もしかしたら、彼が作った仮想通貨マイニングプログラムが関わってるかも……」
「マイニング?」
イセエビを買いに来た女性客によると、捕まった若い男は彼女と何らか関係であり、プログラマ仲間であるらしい。彼は画期的な仮想通貨マイニングプログラムを開発し、一山当てた記念にこれから皆でパーティー……の筈だったのだが。
「で、マイニングって何なの?」
「分かりやすく言うと、仮想通貨は金とか宝石みたいに電子的な資源として埋まってるの。それをコンピュータで計算して掘り当てるのをマイニングっていうのよ」
「だいたいわかったわ。その為のプログラムを開発して一山当てた人が不当逮捕された……」
魚売りには心当たりがあった。
(……大方、今回もヤクザ・コーポ絡みね……。)
その間にも警察黒服が若いプログラマを改造パトカーに押し込もうとする!
「ヒエエエエ!これは濡れ衣!!」「「黙れコラー!大人しくしろ!!」」
「大変だ!このままだとあいつ連行されるぞ!!」「神は死んだのか、クソッタレが!!」
仲間のプログラマやエンジニア達が集まってくる。
「でもどうすればいいの!?」
「……あいつらは多分、公権力ヤクザよ。彼の開発したプログラムに目をつけ、奪い取ろうとしているのかも……」
「権力でヤクザって、もうどうしようもないじゃない」
「……大丈夫。わたしが何とかする」
女性プログラマは魚売りの決意に満ちた目を見てひとまず安心したようだ。
「ルリャーッ!」
ラインの乙女じみた怖ろしくも神秘的なシャウト!魚売りはスケートめいたダッシュ移動で徐々に遠ざかる改造パトカーに追いすがる!
「……アーッ……?」
車内の警察黒服の一人が何らかの違和感を感じミラーを確認するが、尾行者は発見できない。
魚売りは超常の水面を展開して光の反射と屈折を調節、所謂光学迷彩効果で車内の警察黒服に見つからずに追跡を可能としているのだ!
改造パトカーが停止し、とある建造物の中に警察黒服達がプログラマを連行する。
「奴を確保したぞ!通せ!!」「「ドーゾ!」」
魚売りはアクア光学迷彩を解かず注意深く様子を見る。(これは……!?)
警察黒服達が入っていった建造物には確かに複数の警察車両が停車した駐車場が備わっており、二人の警官らしき人物が正面の警備を行っている。
威圧的な『留置場』の看板も備えられており、事情を知らぬ者の目には単なる警察の一施設としか映らないだろう。
しかし魚売りの神秘の眼光を誤魔化す事はできなかった。
彼女は公権力の威光が隠蔽する邪悪を感じ取っていた……即ち、この建造物こそ公権力ヤクザの偽装事務所に相違なし!何たるヤクザ・コーポと国家権力の悍ましき癒着複合体が生み出した涜神の座か!
警察黒服が事務所の奥に消え正面の警備二人が残ったのを見計らい、魚売りが動く!アクア光学迷彩解除!
「面会に来たわ!」
「「不法侵入コラーッ!!」」
警察カスタム黒服の警備ヤクザ二人は魚売りを恫喝!あくまで通す気は無い!
「行けぇーっ!!」
魚売りのラインの乙女じみた怖ろしくも神秘的なシャウト!それと共に背後から何らかの飛来物が複数出現、矢のように警察ヤクザに襲いかかる!
銀色に輝くそれは……殺人サンマだ!
殺人サンマの槍の如く鋭利な口先が警察ヤクザの心臓を貫通……しない!
先端が少し食い込んだのみだ。
(これは……何らかのタクティカル防護装備!?)
「「公務執行妨害ッコラー!!」」
警察ヤクザは公権力カスタムヤクザテーザーを魚売りに向ける!相手に電極を打ち込み高圧電流を流す非人道武器だ!!
ZAP!!ZAP!!
「ルリャーッ!」
魚売りのラインの乙女じみた怖ろしくも神秘的なシャウト!超自然の水の防壁を展開し、テーザーの電流を拡散!
「行けぇーっ!!」
更に超自然の水はシャウトと共に逆流し、警察ヤクザを襲う!
「「アババババーッ!!!!」」
高圧電流にはタクティカル防護装備も無力!警察ヤクザは自らが放ったテーザーで感電死!
事務所内部。
悪趣味なスーツに身を包んだ偉丈夫がプログラマを脅迫している!
「プログラムを渡せッコラー!!」
「ヒイイイイ……パスとかコードとか色々あって……今は僕しか運用が」
「だったらテメェにも働いてもらう!断ったらあの女どもは……」
「ヒイーイイイイ!!」
「行けぇーっ!!」
「「「「アババババーッ!!!!」」」」
警察ヤクザ達の眼球に何らかの飛来物が突き刺さり脳髄破壊!四人即死!
「面会に来てみたら、まさか留置場とは名ばかりのヤクザ事務所だったとはね!」魚売りが冒涜的な内装を眺めながら啖呵を切る。
「侵入者だ!殺せ!生きて帰すなァー!!」プログラマを座敷牢に放り込み、偉丈夫が叫ぶ!
「「「「排除オラーッ!!!!」」」」
六人の警察ヤクザが一斉に公権力カスタムヤクザ拳銃を抜く!
BLAMBLAMBLAM!!
BLAMBLAMBLAM!!
「ルリャーッ!」
魚売りのラインの乙女じみた怖ろしくも神秘的なシャウト!彼女の目前で超自然の水面が高速回転し、銃弾を全て弾き返す!
「アババーッ!?」
跳弾が不運な警察ヤクザ一人の眉間を貫いた!
一人即死!残り五人!
「行けぇーっ!!」
魚売りのラインの乙女じみた怖ろしくも神秘的なシャウト!銀色に輝く飛来物……殺人サンマが矢のように警察ヤクザ達に襲いかかる!
「「「アババババーッ!!!!」」」
殺人サンマの槍の如く鋭利な口先が警察ヤクザの眼球を次々破壊!
三人即死!残り二人!
「「ぶち殺すッコラー!!」」
残る二人は公権力ヤクザ拳銃を投げ捨て、ドスを抜いて突撃!ヤクザ殺意を剥き出しに魚売りを襲う!
「行けぇーっ!!」
魚売りはシャウトと共に宙を打つ!超常の波を突き破りレイピアじみた細身剣が突き出る……否、これは何らかの生物の体の一部!
「ルリャアァーッ!!」「「グアーッ!?」」
全力の薙ぎ払いが警察ヤクザの手首を裂き、ドスが床に落ちる。
魚売りが抱えている武器は……長く鋭利な鼻先を持つ大型魚、カジキである!
「魚振り回してる女ごときにビビッてんじゃネェーッ!!」悪趣味スーツ偉丈夫が怒鳴り散らす。
一方の警察ヤクザが素手で殴り掛かろうとするが、リーチの差は圧倒的だ。
「ルリャーッ!」
魚売りは野蛮なヤクザパンチの一撃をカジキで受け流し、カウンターの鋭い突きを放った!
「アババーッ!?」
カジキによる鋭利な刺突が首筋を直撃し、頸動脈断裂!
即死!残り一人!
最後の警察ヤクザは落としたドスを回収!再び抜き身を構え魚売りに向かってくる!
「死ねッオラーッ!!」「ルリャーッ!!」
恐るべきヤクザ凶器・ドスと大海原の剣・カジキが激しく切り結ぶ!リーチの差で魚売りが押しているが……。
「テメェ……!!」卑劣なヤクザキック!
魚売りはスケートめいた回り込み移動で回避。警察ヤクザはドス追撃を試みる!「死ね!死ねーッ!!」だがそこに隙が!
「ルリャアァーッ!!」
下半身が無防備!魚売りはカジキを下段に鋭く突き出し、下腹部を狙う!
「オゴボボボーッ!?」
カジキによる鋭利な刺突が急所を的確に貫き、股間破壊!
即死!警察ヤクザ軍団全滅!
「バカな……全滅だと……!?」悪趣味スーツ偉丈夫が唸る。
「残りはあなただけね」魚売りは整った笑みを崩さない。
「……ッオラーッ……!!」悪趣味スーツ偉丈夫は抜き身の刀を振り上げる!もはやその咆哮は禽獣の叫びとも雷雲の轟きともつかぬ名状し難いものだ。
「死にさらせオラーッ!!」悪趣味スーツ偉丈夫が殺意を剥き出しに刀を振るう!ドスよりもリーチ、切れ味共に優れ正面からの切り結びは危険!
「ルリャーッ!」「グアーッ!?」
だが怖ろしくも神秘的なシャウトと共に偉丈夫の手首は切り裂かれ、刀は彼の手を離れて宙を舞い床板に突き刺さった!
カジキによるレイピアめいた鋭い一撃によるものだ。
「貴様アアアッ!!!!」偉丈夫は無傷の左手で殴りかかる!
だが偉丈夫が放った野蛮ヤクザパンチはカジキの胴体に受け止められる!
「バカなァ!!」
そこに既に相手の姿は無い……後ろだ!スケートめいたダッシュ滑走で背後に回る魚売り。
「ルリャーッ!!」「ギャアアアーッ!?」
再び怖ろしくも神秘的なシャウトが響き渡ると共に、背後から足元を狙った鋭い斬撃で偉丈夫の両アキレス腱切断!うつ伏せに倒れ込み無様に床と接吻する偉丈夫。
「……貴様……何者だァッ……我々は公権力ギャアーッ!?」
「何が公権力よ、何処からどう見てもヤクザじゃないの」
魚売りのカジキ剣先が悪趣味スーツ偉丈夫の脛を貫き、苦悶する偉丈夫!彼の精神に苦痛と共に恐怖が湧き上がり始める。
(何者だこの女は……!公権力もヤクザ・コーポも恐れていないだと……!?現に十人ぶつけてもなお無傷で向かってきた……まさか……いや、『あれ』はそのまさかだ……!!)
「話は全部聞いたわよ。コンピュータウイルスとか言い掛かりつけて拘束して、彼のプログラムを搾取する計画もね」
「化け物め……アアアーッ!」
「何よ失礼ね……さて、この一件に関してはケジメをつけてもらうわ」
魚売りが足元を打つと、超自然波間から巨大ロブスターが出現!そのハサミは人間の指など容易く切断できるだろう。
「どの指から詰めるかは選ばせてあげるわ」
魚売りはやはり整った表情を崩さない。
「ア、ア……アアアア……」
偉丈夫は完全に発狂!まともな返答は期待できそうにない。
「じゃあ、左手の小指から……」バキリ!
「ギャアアアアーッ!!!!」
ロブスターのハサミが偉丈夫の左小指を根元から切り落とす!
「次、左手の薬指……」バキリ!
「ギャアアアアーッ!!!!」
ロブスターのハサミが偉丈夫の左薬指を根元から切り落とす!
「次、左手の中指……」バキリ!
「ギャアアアアーッ!!!!」
ロブスターのハサミが偉丈夫の左中指を根元から切り落とす!
「次……あ、もう指がないわ。あの子助けて帰らないと」
「アアア……アバッ……アバババーッ!?」
血溜まりの中を無様に呻きながらのたうち回り、悪趣味なスーツをますます悪趣味な色に染めた男の首をロブスターのハサミが無慈悲に圧し折る。警察ヤクザを従え、公権力の威光で市民を搾取していた者の末路であった。
――――――――――――
「やっぱり公権力ヤクザの仕業だったわ。でも事務所は完璧に叩き潰したからもう大丈夫」
公権力ヤクザの死体は超自然波間に沈めたため、痕跡は残っていない。ヤクザ・コーポの者が事務所に来ても追跡は不可能だろう。
救出されたプログラマはもちろん、その仲間のプログラマやエンジニア達も魚売りに感謝している。
「助けてくれてありがとうございます!」
「これでまた、一緒にプログラム開発ができるわ!」
「あいつが連行された時はどうなるかと思ったが……」
「神はやっぱり生きてた。そこのお姉さんは正真正銘女神様だぜ」
魚売りはその言葉にかぶりを振る。
「……違うわ、わたしは……」
「……通りすがりの魚屋さんよ!!」
【第3話完】
スキするとお姉さんの秘密や海の神秘のメッセージが聞けたりするわよ。