ムゲンキョウカイシンギュラリティ
「何で……書けないんだ……」
僕は駆け出しの小説家で、今非常にまずい状態だ。〆切が後一週間後に迫っているのに質の悪いスランプに陥ってしまい全く筆が進まない。
そんな訳で今日も徹夜で原稿に向かっているし、作業机の上はノートPCの他蓋の空いた薬瓶やエナジードリンクにタブレット端末、コンビニで買ったパックサラダにネズミの死骸などが散らかっている。
黙々とキーボードを叩き脳内の言語化不能な混沌を強引に文字として出力する。しかし何故だ、タイプした文字数は増えている筈なのに残り文字数の方が増えていく感覚を覚える……!
だが大御所ならいざ知らず、まだ無名の身である僕はこの原稿を落とせば確実に次の仕事は無い。
奇怪に捻じれたキノコと丸々肥えた芋虫が乗ったサラダを大急ぎでかき込んでいると、タブレットから喧しい呼び出し音。また担当編集からの進捗確認電話だ。
「ちょっと、原稿は」「順調に進んでます!それでは次の打ち合わせで」
その瞬間、僕の背筋に怖気が走る。
机の上を何かの影が這うように伸びた。
それを視線で辿るとネズミの死骸……なぜネズミの死骸が机の上に!?それは手足をばたつかせ今にも走り出そうと
「うわああああ」「何だね!?何だ」
僕はタブレットの電源を切り作業部屋を飛び出した。
あの恐怖を振り払うように僕は走る。
気付けば近所の公園に辿り着いていた。ぐったりとベンチに腰を下ろしたその時、電話がかかってきた。またか!……違う。恋人の美沙からだ。
「もしもし、鏡弥君大丈夫?」
「正直あまり大丈夫じゃない……」
「待っててね、今そっち行くから!」
美沙はどうやら今から僕の自宅に行くらしい。夜も遅いし、何よりあんな事があったのだ。心配にならない訳が無い。
気付けば僕はまた自宅の前に戻っていた。
そこに走ってくる一人の女性。見間違える筈が無い、あれは美沙……
「鏡弥君……!!」
違う。あんたは。
「鏡、弥、くん」ぎちり、ぎちり
美沙じゃない。
【Day1Chapter2に続く…〆切まで後7/7日】