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2軸で考える!日本の外科治療の良さと海外の良さ~外科医として留学する前に知っておきたいメリット~

こんにちは!雑草外科医ことトロント大学腹部移植外科の後藤徹です。本日は日ごろ私が感じる海外の良さ、日本の良さを比較することで、次世代に海外を目指す先生方に具体的なビジョンを持って留学を志して欲しいと思っています。卒後7年目まで日本で教育を受けた11年目外科医が考える、双方の良さとは何か。ぶっちゃけた内容もありますが、いろんな人に知って頂きたいので記事は無料公開とさせて頂きます。(力作なので気に入ったらサポートして下さい!)

1 教育システムの違い

レジデントで入るかフェローで入るかで内容に違いはありますが、私のいまのポジションであるフェローの基本は【すべて執刀する】のが大原則です。これは肝膵腎移植から肝胆膵悪性腫瘍(Whipple=膵頭十二指腸切除術、腹腔鏡下肝切除など)まんべんなく執刀のポジションが与えられます。私は日本で後期研修後に肝胆膵を重点的にトレーニングしましたし、院生留学時に大動物の移植手術をやりこんでいたアドバンテージがありますが、これは正直びっくりするくらい任せてもらえます。要求されるレベルは高いので、日本の後期研修直後にうちのフェローになったとすればかなり苦労すると思います。手術件数についてはほぼ毎日何らかの手術を執刀しており、多い日は日に数件執刀し帰るのが深夜ということもざらです。その分、手術教育は手厚く、各アテンディング(巨匠)からノウハウを重点的に受け、先に述べたべらぼうな症例数からぐんぐん伸びていくのが自分で分かります。

『やってみろ』が基本の北米教育ですが、日本の良さは、『じっくり正攻法とトラブルシューティングを理解しなさい』です。最近SNSでも話題ですが、ただ見ているなんて時間の無駄だ。だから外科はつまらないという先生が散見されますが。じっくりと観察して巨匠たちがどういう展開と戦略で手術しているか観察できるメリットがあります。何も考えずに、教えてくれよと受け身でいる方には理解できないと思いますが、自分がやるとしたらどうしたらいいんだろう?と上司のトレースをしだす時期にはこの教育方法は絶大です。私がメリットとして感じるのは、日本でしっかり後期研修と肝胆膵フェローを終えて、基本を叩き込まれているという点。がむしゃらに働いていて(今もそうですが)、当時は何が成長したか全くわからない状態でしたが、こちらにきて異国の外科医達と一緒に手術をして、これまでしっかり教育されてきたんだなと実感し、そしてその技術力は北米トップ施設でも引けを取らないと言うことです。

2 患者術前管理の違い

術前検査の大きな違いはありません。しかしながら日本は内視鏡評価の世界トップであることは痛感するところで、術前ERCPやステント、胆道鏡、胆管マッピング、膵臓EUS-FNAなどの高度技術はアクセスが容易ではないことは事実です。術前評価については放射線医や内科医と共に移植リスティング会議や悪性腫瘍であればTumor boadで治療方針を決定する点は日本と同じです。ですが、そのほとんどはResectability, Transplantabilityの評価で、具体的アプローチを議論することは少ないのが特徴です。日本で研修医が術式まで踏み込んで発表させられ、上級医にコテンパンにされるということはありません。しかしこれは言葉を介せば、各Attendingは巨匠レベルであり己の方法で切除するという意味になります。これは一見スマートなのですが、部下の立場からはもっと解剖や手術戦略について議論して糧を増やしたいというのは正直な所です。前作でも述べましたが、フェローは手術前日に自分の執刀を知るので、そこから自分で画像を読んで手術ストラテジーを構築して朝の術前にアテンディングと話し合うという環境は、かなりのレベルが必要ともいえます。またトロントではほとんどの患者は当日入院します。ですのでそれなりに腸管内には便がある状態で手術します。肝胆膵手術で問題になることは少ないですが、事前にICとConcentを取られているとはいえ、初めまして!おはようございます→では手術頑張りましょう!の流れは最初戸惑いました。

3 手術の違い

北米の圧倒的な手術術野展開と縫合の早さは超級です。日本と違いハイボリュームセンターに集まる症例数は尋常ではないので(例えば肝移植なら日本の半分以上をうちの施設で移植している計算)、その上級医の腕たるや恐ろしく高いレベルにあります。日本では手術不能であろう症例も、肝移植の技術を応用した体内冷灌流下での血行再建手術、超高度浸潤癌に対して大動脈再建までして切除すると言った超拡大手術も根治性の確保のためには厭わない技術レベルがあります。このアテンディング達から指導され執刀機会をもらえるということは言語や文化の壁を越えて海外で臨床をする最大目標と言っても過言ではないと思います。

一方で、日本の良いところはやはり丁寧な手術と思います。腹部外科で言えば膜解剖に基づいた無血手術、肝臓の膜を考慮したグリソン一括処理など非常に大事な技術と思います。また精緻な止血術と言うのも売りと思います。丁寧に剥離面からの出血を一つ一つ焼灼、縫合止血して完璧な止血を得てから閉腹する日本の丁寧さは素晴らしいと思います(もちろんCoaglopathyでパッキング手術となる症例はありますが)。

技術力については甲乙つけがたいと思いますが、デバイスの違いは明らかです。常に北米で新商品が出ることは事実です。良し悪しはあるかもしれませんが、北米では肝切除でウォータージェットメス(今は日本でも使用可)を使用しますが、日本ではCUSA(超音波電気メス)が主流のところが多いです(これは好みもあるので、ウォータージェットが良いと言っているわけではアリマセン)。万人がすぐにできるように手術を設計する北米と常に最高クオリティを求める日本との道具の使い方やこだわりには差があるかもしれません。またハイブリッド手術室や臓器再生室などの先進的手術室も併設して世界最先端の科学と研究との融合も北米のメリットです。簡単に言うと資金力と実行までのプロセスが異常に早いのです。

4 術後管理の違い

術後管理の最大の特徴は、オンコールが回すという点です。日本でもチーム制へ移行しようという動きがありますが、こちらはすでに手術と病棟管理で完全にServiceが異なります(もちろん大学に寄りますが)。今週は手術チーム、ひたすら臓器を植える、悪性手術を執刀し続ける。来週は病棟当番で、どんどん来る重症術後患者を管理徹底して再手術も行うと言った様子。これが四六時中病院にいなければならないという日本の外科の大変な点と異なり、「仕事がないなら帰る」を実現します(手術多すぎて帰れないんですけどね)。術後管理の二つ目の特徴は、分業化が進んでいる点。実は病理標本整理は一切行いません。それは病理の先生がやってくれます。基本の病棟管理はレジデントが手伝ってくれるのですが、PA(Physical assistant)やNP(Nurse practitioner)がオーダーや基本的検査を手伝ってくれます。またドレーン挿入やコイリングなどの手技は放射線科のDrに依頼することになります。末梢IVライン、PICCやCV、イレウス管も自分で入れません。オーダー判断させすれば、すべて専門のスタッフが行うのが原則です。これが外科医の負担を大軽減してくれます。分業はさらに進んでいて、移植に関して言えば、移植内科(HepatologistやNephrologist)が基本的内科管理を行い、移植感染症内科(ID)やICUが併診してくれます。日本ではまだ移植内科や移植感染症内科は未発達で、今後の発展が望まれます。

日本のメリットとして綿密な術後管理があると思います。チーム制にして労働時間短縮を目指す日本に逆行する意見で申し訳ないですが、いくら引継ぎをしても術者に勝る患者の理解者はいないと私は思います。また食事に関して日本は細かく分かれているのも特徴です。3分粥、5分、全粥といったくくりは北米にはありません。Ice ship、Sipping、Clear waterからFull fluid、Normal mealにいきなり格上げになります。栄養面で補助が必要な場合はもちろんDieticianが細かく計算して対応してくれますが、日本の病院食クオリティは最高と思います。

5 雑草の勝手な評価:どちらがよいのか?

甲乙つけがたいというのが正直な所です。。。

絶対に海外で今後もやっていく!と決定している人はレジデントから応募、またはアカデミアと論文によるCV強化をしてからフェローに応募という流れで良いと思います。

もし日本で外科技術の基礎まで身に着けている方であれば、合理的システムで症例を集約化し圧倒的な症例数を経験できる海外ハイボリュームセンターは大きな価値があると思います。しかし日本には日本の施設の道場主が伝える一子相伝の秘業を学べるチャンスはあるわけで、それにはある程度の時間(信頼を築き、教えを実践する)が必要になることも事実です。私は海外で研究し臨床にコンバートしており、日本のハイボリュームセンターでコツコツというキャリアではないので、後者の先生がどうなるのかは正直分かりませんが、上手くコラボレートして海外教育の良い点、日本の伝統外科の良い点をうまく融合させたら良いのではないかと思っています。

結語

日本も海外もどちらの外科治療も素晴らしい面があります!

メリットと自分の留学目標を照らし合わせて挑戦しましょう!

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