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外科医の魅力って何だろう?メリットとデメリットを11年目医師が考えてみる

外科は医療ドラマでは救急に次ぐ花形であり、医師を目指す高校生や医学生でもある程度外科医の生活は想像がつくと思います。でも実際は体力的にキツい、男社会などのデメリットが目立って諦めてしまう方も多いと思います。そこで今回は11年目の医師である筆者が外科医の魅力とその裏側を、今回も忖度なく書いてみようと思います。

まず自己紹介すると、私は卒業後11年目の外科医で、現在海外で働いています。専門は消化器外科、Specialtyは臓器移植外科です。大学病院で初期研修後、一般病院で後期研修、スタッフ勤務後に大学院で帰学し、その後研究留学し、現在外科医として海外就職しています。

ズバリ、ここが嫌だよ!外科医生活!

いきなりデメリット提示して大丈夫かよと思う方が多いと思いますが、まず皆さんが思うデメリットを正直に提示したいと思います。おいしいところだけ言って後から苦い点を少しだけ述べるのはフェアではないですし、このコラムを読む方の大半はリスクを取りたくないという若手だと思いますので先に嫌なところを全て吐いてしまいましょう。と同時に、誤解も多々あるので同時に修正してみましょう!

1.忙しい×忙しい×忙しい

外科医生活の最たるイメージは3Kでしょう。きつい、きたない、きけん。

あながち間違っていはいません。汚い、危険は少しずれていますが、『きつい』に関してはごもっともと思います。では『きつい』とは何でしょう?

マラソンをしていて『きつい』と感じるのは自分のCapacityを超えるペースで走ることを意味します。でもマラソン練習とは自分を追い込んで本番のレースで実力以上に走ることですから『きつい』とは決してマイナスではありません。楽な練習ばかりを選んでいては本番のレースでは自己記録を更新できません。

外科研修で言えば、自分の知識、技術を超えた業務内容を課せられた時、つまり忙しい時に人は『きつい』と思うでしょう。でもこれはその初心者にとっては当然のことで最初はすべてがきついに該当します。このステップは将来もっとCapacityのある医師に成長するために全員に必要なノルマでもあります。皆が皆、成長なしに研修医レベルのままだったら医療が崩壊します。一点留意して貰いたい点は、業務が多いのは決して外科だけではなく、逆に”楽な”科を探す方が難しいということです。いずれの科にしても『きつい』とは起こりうる状況であり、この点で外科を避ける理由にはならないと思います。そして年齢を重ねれば仕事内容はより高度なものになり、すべてを自分でやることは無くなるので悲観する必要はありません。

では外科の何が忙しいのかを少しのぞいてみましょう。外科医は手術だけをすればよいのではなく、その前後にも多くの仕事がある点が忙しい理由です。手術前の患者さんは外来や入院後に検査やカンファレンス、他科との検討会もありますし、手術後は病理検体提出(切除した臓器や腫瘍を病理の先生に渡す)、手術記録、スケッチ、術後管理(ICU、一般病棟)があります。特に外科医は患者さんが手術を避けられない危険な状態、または今は全身状態が安定しているが将来生命に関わる病気を切除、再建するために手術をします。よって手術後は意図的に患者さんに負担をかけることになるので、急変もしばしば起こります。この忙しさと責任の重さが『きつい』ことの正体です。確かに他科にくらべて忙しいと思うランキング上位には入ってきますが、修業時代にはどうしても必要なピースと思います。漫画の主人公に必ず修業して強くなるシーンがあるように、医師にも大なり小なりきついトレーニングの時期はあります。

2.外科は体力勝負なのか?

外科は体力バカで、体育会系や脳筋(脳まで筋肉でできている)者たちが選択する科だ。というイメージははっきり言って昭和の外科医と思います。もし大学の先輩がそう言っていたら、古い風習を妄信しているかわいそうな人々と思って下さい。

というのは、まず外科の仕事は体力勝負とは限りません。何十時間もオペをして..というドラマを見ているのでしょうが、実際10時間以上かかるオペをする科は限られています。しかも前の世代の様に朝まで飲まず食わずで手術をするのだなんて現代の生理学に反するようなパワハラは致しません!人はのどが渇いたと思ったらすでに20-30%のパフォーマンスは落ちています。トイレを我慢して手術を続けていたら膀胱や直腸が破裂します(嘘です、漏らすだけです)。現代の外科医は長丁場の場合、いったん清潔術野を降りて飲食やトイレ休憩をします。そしてリフレッシュして戻ってきてまた集中して手術をします。外科はチームですので、長い手術と分かっていたら周りのチームが病棟管理をしたり、業務を終わらせておくチームワークもあります。だからこそ術者は如何にスマート(出血なく、最も合理的で、最も安全で、そして最短時間で)に手術を終える頭脳戦に切り替えることが出来るのです。頭を使わずに手術も、手術後もダラダラ残ってダラダラ仕事をする時代ではないのです。

そして、外科と言っても幅があります。先にも言いましたが、手術時間は科によって違います。例えば脳外科や心臓血管外科、耳鼻科、移植外科と言った外科はいまだに超長時間の手術もあります。でもこれらの科の手術がすべて長いわけではありません。乳腺外科医や呼吸器外科医、消化器内視鏡外科医では手術時間が数時間で終わるものも多く、女性外科医やプライベートとの両立を考えた働き方を優先できるよう十分配慮されています。最近ではダヴィンチやHINOTORIといったロボット手術も各臓器で導入され、術者は手洗いもすることなくサージカルコンソール(ガンダムのコックピッドみたいなやつ)に座って、3D画像で立体的に手術をします。ヒトの何分の一という小さい鑷子、デバイスとヒトの手にはまねできない関節の動きで精緻な手術を行っています。助手は術野や外野からモニターで手術を把握します。術野もろくに見えない状態で何時間も立ちっぱなし、と言うのは明らかに古いイメージです。医学生時代に何時間も学生を立たせておく悪習は私は大反対で、術野に入れるか、解説しながら手術を見せないと教育とは言えないと思っています。医師になってからは自分次第でいかようにも手術を勉強できます。要は長い手術でもその治療に魅力を感じればその科に、短い手術で集中してやることが好きならその科に、自分の興味に従って選べばよいと思います。

3.収入はそこそこ、でもバイトは若手のうちはやりにくい

収入と言う点では外科医に大きなデメリットはありません。(この言い方は例えば自由診療クリニックや開業をしやすいメリットがあるというわけではないので、あくまでも平均に劣らないという表現です。)時間外の労働があり、それを申請できないブラックな病院だったとすれば時給自体は減っていきますが、常識の範囲内では決して裕福ができない収入ではありません。資産形成や税金対策が全く不要で、若年でFIREできることは日本の外科医ではありえませんが、臨床医として勤務して働く上で困ることはないと思います。(具体的収入を書いて議論したいですが、これは都会か田舎か。公立か私立か。志望科の同期がどれほどいるかなどで大きく変わるので詳細は割愛します。)

ただ若手(レジデント)のうちは患者管理やオンコールなどが足かせとなって若いうちからバイトをたくさんするということが難しい病院はあると思います。この点では内科レジには収入面で劣るかもしれません。

ちなみに海外の外科医(当地移植外科)はトレーニング期間が終わるジュニアアテンディングの基本年給は2000万円程度、Associateは5000万円以上になります。さらに手術一件あたり200-400万円のインセンティブが入るので、彼らはお金には困りませんね。。。そこまで成るのが大変ですが。

4.先は長し、10年経ってようやくスタメン選手

外科のデメリットの最後は、修業期間の長さです。内科医の先生が5-6年目の時期に自分の成長がプラトーに達したと言う愚痴をしばしば聞きますが、これは外科医では絶対にありえません。頭で分かっていても実際に手術ができるというわけでは決してないので。手技が治療の主体となる科は、頭のイメージを自分の手で具現化する必要があります。手術での役割は初めは助手の立場でしょうが、その後、前立ち、執刀医とランクアップしていきます。手術の種類も様々で、例えば、同じ胆嚢摘出術でも、予定腹腔鏡下胆摘、緊急の開腹胆摘、悪性腫瘍疑いの胆摘+肝床/リンパ節郭清では難易度が全く違います。また人には解剖学的破格や腫瘍の位置の違いなどバリエーションはかなり多いので全く同じ手術だけをすることはありえません。消化器外科では一般的に卒後10年目でようやく一通りの技術を学ぶと言われており、それを自在にoutputし、さらに難治症例へと挑むにはもっと時間がかかるということになります。学ぶことが多いという道としての楽しさはありますが、なかなかマスターできないと悩む時期も長くなります。手術をやって救命したいという思いをどれだけ強く持てるかが高難度手術執刀に必要なピースと思います。

じゃあ、外科の魅力って何なん?

デメリットばかりを語ってきましたが、ここからは外科の魅力をお伝えしたいと思います。私は以下の3つが大きな原動力と思っています。

1.自分の手で患者さんを治す感動

自分の頭で考えて診断し、自分の手で手術を完遂して、元気に患者さんが退院するという喜びは何物にも代えがたい感動です。厳しい修業時代に外来で元気に通院される患者さんの顔を見て何度癒されたか分かりません。病棟でもオペ室でも緊張と責任の連続ですが、給与以外の見返りで、感動を患者さんと共有できる外科医という職業はとてもやりがいがあると思っています。

2.緊急時の最後の一手となる使命感

緊急疾患での最後の砦となるケースは外科でもよくあります。消化器外科では大腸穿孔や虫垂炎の汎発性腹膜炎など内科、ICU管理だけでは救命が難しい場合は、リスクを承知で外科で緊急手術を行う必要があります。緊急手術は全スタッフに予定外のスケジュールを強要するもので大変な仕事ですが、無事に終わってバイタル(心拍数、血圧、呼吸回数など)が安定して術後ベッドに戻って来た際の安堵感はひとしおです。何かあれば自分の頭で、手で何とかしないといけないという使命感は自分を成長させます。

3.たくさんの医療者と関わる喜び

外科はチーム医療です。外科医だけでは何もできないです。術前リスク評価や術後助けて下さる内科、放射線科、麻酔科等のDrのみならず、病棟や手術部のスタッフ、薬剤師、リハビリのPT、OTの先生すべての協力が必要不可欠です。全員の総力で一人の患者さんが退院に至った際の喜びは皆で分かち合います。多くの医療者とコミュニケーションを取って一緒に働くことは本当に楽しいことです。

結語

あれこれ想像で外科を志望科から外すことなかれ!

あなたの大学や初期研修病院だけが”外科の代表”ではない!

興味があるなら飛び込んでみよう!!

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