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ただの勤務医が英国工学部大学院に入学するという選択

私は1年半前、選択を迫られていました。
大きく分けると
・仕事を取るか、家族を取るか
・患者/職場を裏切るか、裏切らないか

私は形成再建外科医として医療現場に身を捧げ、365日常に病院からの連絡に待機し、遠出もなるべく避けていました。
私のような働き方をする人間がいるから医療現場がダメになるという意見もよく聞きます。
しかし私のこの姿勢のおかげで、トラブル時にプロがどう対応するか、を目の前で吸収し続けられてきたことは確かです。
危機の際の引き出しの多さが医師の価値を決めると考えています。

とはいえ家族を持つとこの姿勢を取り続けるのが難しくなります。
私の仕事の裏で、私の子供達に発達の特性が見つかり、妻はその支援で走り回っていました。
私は現場から去ることは患者を見放すことと考えていて、子供を妻に任せきりで長らく家族に向き合うことができていませんでした。

家族とのバランスが取れなくなった時、勤務医は開業医になることが多いです。
私は減り続ける中堅医師と増え続ける雑務の渦中で、人生の選択を迫られました。
医局を辞めて仕事と家族とのバランスを取る、これが普通の選択です。

しかし私の場合、医局を離れることは先輩方がリスクを取って授けてくれた技術を捨てることであり、また美容に行くことは医療現場を見捨てることでした。
私は圧倒的な技量の先輩が再建手術の技術を捨てて美容に行く姿をたくさん見てきました。
美容医療を宣伝し、後輩を勧誘し、医療現場から優秀な人材が引き抜かれていく様子も見てきました。
一方で人材が減り、これまでの医療を保つために今まで以上に自分を犠牲にする上司達。
管理の難しい潰瘍や、高度技術を要する再建手術の先行きが見えなくなっていました。
このまま行くと困るのは患者さん達です。

私は組織移植術を愛していました。
一度人生を捧げる覚悟をした分野なので、最後まで添い遂げようとしました。
組織移植術に貢献しながら、家族とのバランスも取りたい。
医療人として医療現場から人材を奪うようなことはしたくない。
苦悩の末見出した道は、海外で組織移植に関わる医工学の研究者になることでした。
英語が苦手な私の、人生を賭けた挑戦が始まったのです。

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