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AAEE国際学生交流プログラムの進化(2) SDGs & グローバルパートナーシップ

記録を辿ると、AAEEは2014年以降、約20回ベトナム、ネパールなどで国際交流プログラムを開催している。さらに、前ブログで紹介した2014年のベトナムプログラム以降、「課題調査型」をずっと繰り返している。そして、そのほぼすべてに関は同行し観察している。

「僕にとっては繰り返しでも、参加する学生にとっては一生に一度のプログラム。最高の学びと思い出を提供してあげたい。そのためには、『失敗しない』同じ形のプログラムの精度を少しずつ上げていくことを選択した。」

大瀬「毎回、同じことを繰り返してばかりだと、飽きてこないですか?毎回、どんな気持ちで臨んでいるのですか。」

「飽きるなんてとんでもない。型が同じでも結果は毎回異なる。例えるならば、サッカーのワールドカップの監督とか舞台監督の気持ちに近いかな。プログラム開始前も空き時間はずーっとプログラムのことを考えているよ。2週間のプログラムはものすごく細かい要素の組み合わせで成り立っているから。準備期間中の少しの工夫がものすごく大きな感動に繋がる場合もあるし、小さなミスが致命的な結果をもたらす。プログラム中の声掛け一言で一気に流れが変わる。扱っているのは機械ではなく人間だからね。」

 大瀬は大学二年次にベトナムで二週間、アシスタントとして関の脇で一緒に活動したが、基本、関は学生たちと一緒に戯れているようにしか見えない。「この人は何を考えているのだろう」と疑問に思いたびたび聞いたが、

「僕、こう見えて必死なの。朝楓も、もしこの分野の学びを深めれば僕の気持ちがわかるようになるよ。」
この一点張りで悔しい思いをした。異文化コミュニケーション、心理学、教育学、外国語学習など様々な分野が複雑に絡み合っていて、言語化して説明するのは至難の業なのだそうだ。

「歌手にとっては歌がすべてでしょ。画家にとっては絵がすべてでしょ。僕にとってはプログラム自体が芸術作品なの。だから、それを言語化して説明するととてもつまらなくなってしまう。研究者としての最大の悩み。苦しい。」

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あれから二年経った今では、大瀬も少しは成長し、当時の関の気持ちが少しはわかるようになってきた気がする。
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「『交流』を通じた国際的な友情」構築。一見ありきたりな目標をAAEEは12年間突き詰めて考えて実践してきた。交流の手段として扱ったテーマは、貧困、教育、環境、幸福、家族観、伝統文化など多岐に亘り、学際的な団体となった。

大きな節目となったのは2015年。                   この年にはAAEEにとって大きな事件が2つ起こった。

一つ目はネパール大地震である。関がNHKニュースウォッチ9のトップニュースで解説し一躍時の人となった。つられてAAEEや関の本務校、東京経済大学のゼミにおけるネパール支援活動がテレビや新聞で大々的に報道された。

二つ目は、SDGs「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の採択である。

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国連は2000年に国際社会において8つの目標を掲げたミレニアム開発目標(MDGs)を定めたが、その達成期限が近づき、2015年には新たに2030年までの目標として持続可能な開発目標(SDGs)を採択した。今でこそ世界中で常識となっている「SDGs」という言葉。しかし、2015年当時、その言葉や取り組みを理解している一般人はほとんどいなかった。

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その話を聞きながら大瀬は驚き興奮気味に言った。
「AAEEはSDGsが採択されるずっと前から、SDGsにあるようなゴールに向かって学生間で議論を進めていたのですね。ゴール17(グローバルパートナーシップ)なんか、AAEEそのものじゃないですか!」

 その言葉を待っていたかのように関は告げた。(AAEE メソッド)→http://aaee.jp/about/
2009年に『AAEE教育メソッド』を作って実践を重ねていた。もちろんSDGsのことなんてこれっぽちも考えていなかった。だからSDGsのゴール17を見た時には驚いたね。AAEEのやっていることってまさにSDGsだ。これって偶然なのか、それともAAEEがに先見の明があったのか。たぶん両方だね。」

「それで2016年、試験的にベトナムプログラムのテーマを『SDGs』にしてみた。そしたらベトナムで10名の参加枠に400人以上が応募してきた。志願倍率40倍!さすがに慌てたね。
既にテレビ報道やSNSで知名度が上がっていたからプレッシャーもかかってきたよ。」
(2020年6月時点でAAEEのFacebook(英語版)フォロワーは20,000人を超える。) →https://www.facebook.com/AsiaAssociationOfEducationExchange/

 その後大瀬が関わってきたプログラムも、ゴール1「貧困」とゴール4「教育」を絡めた「貧困と教育」や、SDGsの環境分野とゴール11の「住み続けられる街づくり」を絡めた「Sustainable society and SDGs」など毎年SDGsと絡めたテーマを設定し、学生交流と特定課題調査を進めている。また最近では、「幸福感」や「家族観」など一見SDGsとは関連の薄いところから入り、次第にSDGsと絡めていく応用的なアプローチも試みるようになった。

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 「AAEEは日本国内では最先端をいく学生中心の国際交流団体であることは間違いない。」

こう言い切られると、その団体の学生リーダーである大瀬にもプレッシャーがかかる。

 「AAEEが今抱えている最も大きな問題は日本の学生にある。参加学生の意識差や勉強量差を何とかしないと・・・。」

この課題に関しては、大瀬自身もベトナムプログラムにアシスタントとして参加した時、そしてその後の活動においても身に染みるほど感じていた。

2016年以降は日本でも参加学生を公募することになった。幸い多くの学生が参加を検討してくれた。書類選考、学生アシスタント面接、そして代表理事面接。
もちろん、合格する学生は優れた学生たちばかりで、プログラムの趣旨もよく理解している。
しかし、合格してからが問題だ。プログラム開催までの約3ヶ月間、様々な事前課題を設定するものの、参加者の学習意欲にエンジンをかけるのが容易ではないのだ。もちろん学期内で勉学や他の活動が忙しいのはわかるが、現地の学生が本気で準備で取り組む姿を見ていると意識の違いに焦りを感じてしまう。

日本の学生のエンジンがかかりにくい要因の一つに主催者側のアプローチがあることは認めつつ、学生自身にも改善の余地が大いにあるという。

「多くの学生たちは、特に準備しなくても何とかなると思っているんだよ。ネパールとかベトナムのことを途上国、貧しい国くらいにしか思っていないのが実態。さらに厳しく言えば、自分自身が無知であることすら気づいていない。だから現地に言って『まさかこんなはずでは・・・。」となってしまう。それがその後の学習動機になることは良いのだけど、現地の学生が準備不足の日本人学生たちを見てがっかりするのもわかる気がする。」

このことについて、大瀬にも思い当たる節があった。2018年のベトナムプログラム後に行なった事後アンケートでも、参加前のベトナムに対するイメージとして参加学生が挙げていたのは、
「ベトナム戦争」や世界史で習った極めて限られた歴史的事実に留まっていた。ネパールに関しては、ほとんどが「エベレスト、カレー、貧しい」それだけである。
だから、AAEE学生アシスタントがどれだけ気合を入れて事前学習会に臨み、「現地に行ったら大変な思いをするよ?」と伝えても、日本人学生はその真意を理解できない。事前学習で課題を与えても、調べてくる量は現地の学生よりも圧倒的に少なかったり、単純にネパール、ベトナムという国に行くこと、現地の学生に会うことを楽しみにしているのだ。

そして、現地に着いた時には時すでに遅し。

待ち構えている現地の学生たちは、日本のことが大好きで高い倍率を潜り抜けてきた超エリート集団。その上、日本人が足元に及ばないほど本気で準備をしてくるからその差は歴然。

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「毎回、日本人学生が第一にびっくりするのは現地学生の英語力の高さと優秀さだね。
僕は内心、「だから言っただろ」と思うけど、学生たちは経験するまで想像がつかない。かと言って事前勉強会ですべてネタ晴らしすると現地での驚きや感動も減ってしまう。日本人学生の意識改革に対してはまだまだ工夫しなければいけないことはたくさんあるね。」

「でも、なんだかんだ言っても、このプログラムが多くの学生の心に影響を与えていることはほぼ間違いない。だから、12年経っても続いているし応援してくれる人も増えている。非営利活動(AAEEは非営利型一般社団法人)は人々からの応援と信頼がなければ持続しない。
空き時間をほぼすべてAAEEに費やしていると大変なことも多いから、正直、辞めようと思ったことは何度かある。でも、アジア中のこれだけ多くの人々に助けてもらっているからね。法人としての社会的責任もあるし。もう頑張るしかない。」

・・・
時計を見ると、既に日をまたいでいた。
「え、もうこんな時間、何でこんな話ししているの。日本はもう深夜でしょ。再来週のイベントの準備のための電話だったのに。」

関はそう言いながら、慌ててイベントの話しに移った。

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実は、大瀬は関の思い出話が始まった途端『これは貴重な資料になる』と直感し、すべてメモに残していたのである。そのおかげでこのブログ記事を執筆することができた。


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