分別のある戦争
ある日、井上家の前に「持ち主不明」の紙が貼られたゴミ袋が置かれた。おそらく分別がいいかげんだったゴミ袋が井上家の出したものだと誤解されたのかもしれない。
やがて井上家が「うちのゴミではありません」と貼り紙をして応戦する。誰だって他人の無分別なゴミを家の前に置き去りにされたら憮然とする。わけもなく右の頬を打たれたのに黙って左の頬を差し出すような人間はそういない。
井上家の主も清掃業者も一歩も譲らず、ゴミ袋が放置されたまま数日が過ぎた頃、援軍が現れた。
「井上家のゴミ出しは模範的です。今だに出し手が持ち帰らないところを見ると、他地区からの投げ込みと思われます。4/20 局殿」
井上家の毎日のゴミ出しが近所の人にウォッチされてきたこと、井上家が近所でコツコツと地味な実績を積み上げてきたことが伺える。
ぼくも長いことゴミを見てきたが(もちろん美しいものも見てきた)、普通こんなハートウォーミングな貼り紙がされることはない。日頃の行いは大事だ。
と思いきや、ある友達が「この貼り紙はどちらも井上家が貼ったものではないか?」と言う。最初の貼り紙で効果がなかったので、もう一歩踏み込んで「私たちはちゃんと分別してるんだよ!」と冤罪であることをアピールしているのではないか?と。もしくは逆に、「日頃から分別しない井上家がしらばっくれているだけなのではないか?」と言うのだ。
……ううむ………
…ま、どっちでもいっか、どうせ他人の家のゴミのことだし。
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