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おばあちゃんの妙な知恵袋

※全国の鍋島姓のみなさま、この投稿は鍋島姓の方に対する偏見を助長する意図はありません。

Aくんは、小さい頃からおばあちゃんに繰り返し言われるセリフがあった。
曰く、

「鍋島にゃ気ばつけれ(鍋島には気をつけなさい)」

このおばあちゃんというのが、戦国時代の武将であり肥前は佐賀藩の立役者・鍋島直茂によるお家乗っ取り騒動に絡んで実際に不利益を被ったか、逆恨みしている家の血筋を引いていたそうな。

鍋島騒動 - Wikipedia
鍋島直茂は本当に主家を乗っ取ったのか? - 鳳山雑記帳

おばあちゃんも代々そのような因縁を先代から吹き込まれてきたのかもしれない。とにかく鍋島姓の人物が会話に登場したり、鍋島姓の人を見聞きするたびに

「鍋島にゃ気ばつけれ」

としつこく言っていたそうだ。
もちろん、鍋島姓の人など世の中にいくらでもいて、人間関係に世代を超えた因縁など存在しないという良識を備えたAくんは、それを年寄りの世迷言として聞き流しつつ、すくすくと成長した。

やがて大学入学と同時に上京した後、そのまま都内の企業に就職して働き出した。その会社は条件も悪く、深夜までの残業が当たり前のブラック企業だったが懸命に働いた。

ある年の冬、日頃の激務が災いしてインフルにかかり高熱を出した彼は会社を数日休み自宅で休養をとっていた。折しもその頃、会社では業績の思わしくないAくんの所属部署に辣腕プロジェクトマネージャーが親会社からのテコ入れとして出向してきたところだった。

ようやく熱の引いたAくんが出社しようとすると、直属の上司から電話があった。
「A、おまえ昨日付けでクビになっちゃったんだ。みんなでかばったんだ
けど、無理だった。」
「・・・そんなバカな!どうしてですか?」
「そりゃ、納得いかないよな。まあ、詳しくは来てから話すから・・・」

もちろん納得のいかないAくんが出社して上司に詰め寄ると、彼は声を潜めて言った。
「・・・いや、実はな、Aのいない間に急に新しい人が来てさ、カルロス・ゴーンばりにリストラやりだしたんだよ。」
上司は広いオフィスを見渡して、目当ての人物を見つけると言った。
「ほら、あそこで立ち話してる背の高い人いるだろ?あれがその鍋島さんだ。」
Aくんが黙って目を閉じると、遠い日のおばあちゃんの面影が蘇り、深い皺に囲まれた口が言うのだった。

「鍋島にゃ気ばつけれ」

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