マガジンのカバー画像

掌篇・短篇小説集

77
運営しているクリエイター

#毎週ショートショートnote

掌篇小説『晩夏』(827字)

いつもは干からびた夏の河が、今にも溢れそうに、煮えるように波だつ。 灰色のなか融けてしま…

武川蔓緒
2年前
23

掌篇小説『鬼のドレス』(665字)

ジンクスがある。 女性に何かしら贈り物を買い、次に会う時渡そうと思うと、二度と会えなくな…

武川蔓緒
2年前
23

掌篇小説『喜助』

かつては駕籠。 時はすすみ人力車。 そしてクルマ。 と、私の一族を数百年、形は変れど、迎…

武川蔓緒
2年前
21

掌篇小説『陰痴気』(599字)

出張先にて。真夜中。酔っている。 無人のタクシー乗場で待つと、エドガードガ……と、重い風…

武川蔓緒
2年前
26

掌篇小説『花の囁き』(618字)

二階のちいさな露台から、貴男を見ます。あまり乗り出すと母様に叱られるので、そっと。 陽光…

武川蔓緒
2年前
17

掌篇小説『琥珀の序章・黒のフィナーレ』(623字)

ショー最後に現れた、モデル。 かつては教会であった場所。2階の楽廊より、ヴァイオリンの音…

武川蔓緒
2年前
12

掌篇小説『雨のリラン』(480字)

もうさほど冷たくもないビールをグラスに注ぎ。 呪文を囁く。 こまかな泡が遊ぶ、琥珀の澄んだ世界のなか。何やら影が生れたかと思うと、側に居るかのような輪郭をなす。 女。 あの日雨のなか、彼へと駈けてきた女。ミュージカルみたく踊るように。傘をさし。 <逃げてきたの> と唇が無音の言葉を形造り、微笑む。陽気な家出娘。腕には仔犬を抱え。 <この子も私も、貴方のもとへゆく他ないわ> 音はなくとも、女の歌声はすぐ思い出せる。童のおもちゃ程の犬は女と彼を交互に見る。雨に濡れ不安げにも

掌篇小説『夏のアサインメント』(438字)

「柊、宿題どうした」 ふり返ればいる、体育教師。針鼠の如き髪、青のスウェット、右手に恰好…

武川蔓緒
2年前
19

掌篇小説『みどりのバス』(657字)

グレイの霧雨を窓が四角く切り抜く。 景色のないなか、私とエッダのバスは進んでゆく。 蕨・…

武川蔓緒
2年前
18

掌篇小説『野生』(410字)

学生時代。 コンビニがまだ珍しかった頃、暇あらば仲間と赴き。 私は白い天井に、巨大な蛾が…

武川蔓緒
2年前
14

掌篇小説『消える夏』(409字)

西陽の元、幽霊の如く白い女。 痩せた躯に紗の着物を崩し気味に巻き。 「心配に及びませんわ…

武川蔓緒
2年前
10

掌篇小説『慾しいひと』(413字)

遥子(はるこ)は、姪の繭美に見合いを勧める。 早くに夫を亡くしてからも繭美を気にかける。 …

武川蔓緒
2年前
14

掌篇小説『ルトゥール』(406字)

黒いドレスの、彼女が現れた。申し訳程度のスポットと拍手をあび、酷い音のマイクで、唄う。 …

武川蔓緒
2年前
16

掌篇小説『国いちばんの絵描き』(406字)

国いちばんの絵描きに、誰もが描いて貰いたがった。 彼の銀色に光る眼で見据えられると石になってしまうが、それでも身を捧げカンバスに閉じ籠められることを、女も男も望み。 絵描きのアトリエ脇には、種々のポーズをとり石化した裸の女たち男たちがごろごろ転がっている。 彼の眼に耀きを吸われ、そして画のなかへ埋蔵された魂たち。男女が佇む或は踊る瞬間を切り抜いたその舞台は、恐らく現世ではない。 松の枝の如くうねり雲を突くほど高いビルの壁に男が微睡んでいたり、エメラルドの海底で女が巨大