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掌篇・短篇小説集

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記事一覧

掌篇小説『ラストノートサンバ』

 赤い傘を、さしてゆく。  私のでない、むろん彼のでもない女物の、ほんの微かにダマスクク…

武川蔓緒
1か月前
26

短篇小説『ゴールドフィッシュ・ブギー』(6/9加筆)

 金魚鉢の街で。  すこし肌寒い水。今日は。  結婚式だろうか葬儀だろうか、忘れてしまっ…

武川蔓緒
1か月前
26

掌篇小説『火曜の女』

 風薫る季節。  その町ではお見合いの制度が古来よりあり、今もなお淡々と続く。  誰の御…

武川蔓緒
2か月前
14

掌篇小説『日曜の女』

 風薫る季節。 「日曜会ってみて頂戴、いいお嬢さんなのよ」  大伯母は家にくると僕に土産…

武川蔓緒
2か月前
23

ちいさな小説群<10>

【No.058】  某刑務所にて服役中。上下白い服を着て、ほかの罪人の男たちとのんびり歩いてい…

武川蔓緒
7か月前
20

【ピリカ文庫】短篇小説『里神楽』

 アールデコ調のエントランスの屋根で羽をひろげる孔雀は、飾りかと思ったら、本物。  親類…

武川蔓緒
5か月前
48

ちいさな小説群<9>

【No.053】  軀じゅうに突起をもつ男と寝る。手を握られただけで、快感か何か知れぬ刺激に喘ぐ。男は手脚にも胸や尻にも、脣や舌に迄突起が。私は幾百と壺を圧され軀も理性も壊れはて。僅かに遺る意識に、父の姿が映った。最後の父。私にパスタを与えようと、何メートルも腕をパスタを伸ばすが、私の脣には届かない。 ◆◇◆ 【No.054】  深更。帰れず彷徨っていると、灯も朧な、現役か廃墟か判らぬ住宅団地にはいる。Cの39棟4階に、フロアをぶち抜いたカラオケバーが、明明と。老人客

短篇小説『十二月のローダンセ』

 十二月の夢を視ます。彼方にはハル・ナツ・アキ・フユというシキがあったのに、視る夢は何故…

武川蔓緒
7か月前
23

短篇小説『逃げる女のタンゴ』

 逃げる夢路さん。  夢路さんは、撮影の合間に衣裳のドレスを纏った儘、どこかへ消えてしま…

武川蔓緒
8か月前
19

掌篇小説『Z夫人の日記より〜ただ歩く』

「ただ歩く女だった」  と。  知人がホテルにて男と半裸で絡んでいたところ。 「ベッド隅…

武川蔓緒
11か月前
22

ちいさな小説群<8>

【No.047】 「私と出逢えて幸運ね」女はちいさなハープを調弦する仕草だけ、麗しく。荒れ狂う…

武川蔓緒
8か月前
17

ちいさな小説群<7>

【No.040】  2限目。理科室で、おのおの自習。私は小説をかき、隣の麻美は編物。向いの果保…

武川蔓緒
8か月前
18

掌篇小説『珈琲とブラとあなた』

『珈琲とブラとあなた』ってパンクロックの曲が、ちょっと売れている。アーケードの拡声器から…

武川蔓緒
8か月前
28

ちいさな小説群<6>

<壱>  nekonote、と、外国訛のきつい、老いた行商人。  渡されたそれは、本物の猫の手でなく、旧い木彫。要らないと云おうとしたら、もういない。  病院は休みもなく忙しく。  或る日。  消灯後のロビーで、入院患者達、植物人間や死者や幽霊迄もが、点滴も松葉杖も呼吸装置も、白装束も三角巾もとっぱらい、おなじ速さで東へ向かい、歩んでいた。月の光がさす訳でもないのに、皆影を纏わず白く、悟りすました表情で、碧い眼もしくは翡翠の眼。ときどき腕をぺろぺろ舐めてはそれで顔を拭き