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無知

在田希美(ありた のぞみ)は"この世"という場所に悩んでいた。

空があって、雲が流れ
田んぼから聞こえるひぐらしの声
太陽が紅みがかり、そろそろ夕暮れという静かな空

目に見える景色
いつもと同じようでそうでない

時間は絶えず進む
残酷な程にゆっくりと早く


在田は自分の手に目を落とす
この手は本当に私なのであろうか
この湾曲には何が入るのだろうか

これから先とはどれほど先なのだろうか
絶えず進んで時には後退して生きて行ける身が私には残っているのだろうか

いつかは腐敗する?
いつかは骨は残る?
いつかはこの思考も消えてしまう?


在田は”この世”と位置付けている自身の心が
卑屈で既にサークルに囲まれた思考の中で飼われている羊のように無知であることを、今、実感したのだった。



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