海外(カンボジア)ビジネスで大切な事は全てサーシャに教わった⑱ サーシャの告白その一

翌日サーシャは18時にプノンペンの南のほうにある、カウンター中心のダイニングバー"Bangkok Bar"を指定してきた。

Beijing Bar といい、ここといい、サーシャは地名が入っているバーに縁があるのか?

きっかり5分前に到着。サーシャはまだきていない。

18時ジャスト、サーシャ到着。

「さすが、また日本人タイムね」

「サーシャもいつも時間きちんとしてるね」

「カンボジアにいると忘れがちだけど、タイムイズマネーは、世界に通じる偉大な言葉だわ」

ここ、Bangkok Barはその名の通りタイ料理を出しているが、アジア料理全般といった感じで、日本食もメニューにある。

客層は欧米人、アジア人、たまにカンボジア人で、日本人も時々みかける。

この店には、ラオスのビール、ビアラオが置いてある。かつてラオスを旅したときにこのビールが気に入って、日本で飲もうとしたら一缶800円もしてあきらめた思い出がある。

サーシャもビアラオが好きらしく、僕たちはビアラオで乾杯した。

そして、サーシャが3品ほどタイ料理を頼み、僕は「EDAMAME」を注文した。

今現在抱えている案件を少し話しして、2本目のビアラオを飲んだころ、サーシャは唐突に話はじめた。

「あなたたち東洋の人は想像できないと思うけど、私の生まれた国セルビアは内戦の影響でとても貧しいの。でも私は超スーパーラッキーガールだったの。おじちゃんが貿易と海外投資で財を成して、私は生まれながらにしてお金持ちの生活をしていたの」

サーシャがセルビア人ときいたときに、ちょっとウィキペディアで調べたことがある。確かにサーシャがいうように決して経済的に豊かな国ではない。

「大学はアメリカのリベラルアーツを標榜する女子大にいったの。そこで私は、開発経済学を専攻し、アジアやアフリカなどの新興国のビジネス研究にのめり込んだ。その後、教授の薦めでシンガポールの大学院に進み、大学院に残って研究者の道を歩んだの」

なるほど、サーシャのどこか上から目線の物の言い方はこういうところからなのか。超エリートじゃないか。

「そこまでは順調だった。でも、そこである男性と出会ったの。彼は中国人で東南アジアで手広くビジネスを展開している実業家だった。その彼の事業に研究者として関わっているうちに恋に落ちたの」

サーシャの男関係の話を聞くのは初めてだ。

「あるとき彼は私にこう言ったの。『事業をやってみないか、研究者としてだけじゃビジネスなんてわからないよ。今順調なカンボジアの会社をひとつ任せるから自分の力でやってみたらいい。僕もカンボジアに一緒に住んでサポートするから』

とても悩んだわ。こんなチャンスは彼と出会わなければないと思った。でも大学院もやめないといけないし。怖かったけど、『チャンスは前髪長くて後ろハゲ』だから、思い切って掴んだの。なにより彼の望むことをしたかった。

そして彼と一緒にプノンペンにきたの。

彼の事業は主に農業、金融、不動産だった。そのうちのひとつの会社の不動産開発会社の代表になり、私はものすごく働いた。政府やお金持ちのコネクションもできた。おおざっぱにいうと、土地を購入して、そこに建物を建てて販売する。というもの。

土地を購入するのに、カンボジア人名義か、カンボジア人が51%以上株を持っている会社でないといけないから、彼は、カンボジアの国籍を手にいれた。中国人にとって二重国籍は問題なく、お金さえ払えば誰でも国籍を買えた。

なので、私は代表といっても49%の株数で、彼が51%を保有していたの。

さらに事業を拡大しようと投資家からお金をつのった。私が広告塔。『シンガポール』の『ヨーロッパ人』の『大学教員』という肩書は十分な効果があった。私自身もお金を入れた。
そしてある程度まとまった資金が集まったときに、彼と連絡つかなくなった。彼とともに集めた資金も消えた。

会社で保有していた土地もほとんど売られていて、もう会社には何も残っていなかった。私の財産もほぼゼロ。

私は完全な詐欺会社の社長となり、中国社会から大きなバッシングを受けた。怖くてSNSやネットニュースを見ることができなかった。メール、電話での殺害予告も一度や二度ではなかった。

はじめから仕組まれた罠だったことに、ようやく気づいた。

セルビアに帰ることも考えた。とにかくカンボジアから逃げなくちゃとも考えた。毎日泣いた。本当に涙が枯れるというのはこういうことかと思うくらい泣いた」

ここまでサーシャはまるで機械がしゃべっているかのように、感情を押し殺して語った。

僕は、壮絶な話を聞きながらも、EDAMAMEの塩気が足りないことがずっと気になっていた。

それくらいサーシャの話は僕の想像からかけ離れていた。

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