【絵のない絵本】押し売りの多いブティック

押し売りの多いブティック

カランコロン

いらっしゃい。おや、随分べっぴんなお客さんが来たもんだ。今日は何を探しに来たんだい?え?全身コーディネートして欲しいだって?なんだいお客さん、近々デートの予定でもあんのかい?え?いいねえ、若い人は。

いいだろう。ここは私が一つ、お客さんに最高のコーディネート、見繕ってやろうじゃないの。

まずね、これなんかどうだい。紫陽花のワンピース。紫陽花の花びら一枚一枚が丁寧に縫われてるんだ。ほら、紫陽花の花びらって、一枚たりとて同じ色が無いだろう。土壌によっても変化するしね。だからほら、こんな風に、グラデーションがとっても綺麗なんだ。青い空にもよく映えるし、これからの季節にはぴったりだろ。最近は青紫系がトレンドなんだけど、お客さんのその白いボディーならどの色も似合うだろうねえ。ほら、とりあえずこれ、試着してみな。いいからいいから、遠慮しないで。ね、ね。

次に、これなんかどうだい。南天のブローチ。え?そうそう。確かに南天の実は基本秋物なんだけど、敢えて季節を外していくのも、最近のトレンドなんだよ。秋だと採れたてだから鮮やかな赤だろ?だけど、この時期まで持ち越した南天は少し黒みがかってて独特の味を持ってんだ。これが良いアクセントになるんだわ。この前も、あんたのお仲間が一つお買い上げだったよ。あ、あともう一つ季節外しアイテムといえば、このほおづきの日傘なんかも良いんだよ。ほらこれね、ほおづきを葉脈に沿ってゆっくり切り開いて作ったんだよ。大変だったねえ。え?そうそう、ここに並んでる商品、全部私のお手製だよ。もちろん、質は保証付さ。ここからの季節、日差しも強くなるからね。あんたも、今年の夏は飛び回る予定なんだろ。日傘の一つくらい持ってても良いんじゃないかね。ほら、この二つもあわせてみな。ね、ね。

グウグウ

なんだかお腹がすいてきたね、おや、もうランチの時間じゃないか。おっとっと、こいつを忘れちゃいけない。これ、うちで一番のお買い得商品ね。通称「ダイヤのショール」。なんでダイヤかっていうと、ほら、雨に濡れるとこうやって、雨粒が綺麗にレースに引っ掛かって、一粒一粒ダイヤみたいにキラキラ光って見えるだろ。これはね、私が少しずつ少しずつ糸を紡いで織った一点物なんだよ。ほら、羽織ってみなさんな。え?雨の時は羽が濡れるから外出しないって?いいんだよ、ほれ、さっきのほおづきの傘、あれ雨天兼用だから。あのほおづきの傘さして、このショール羽織って、雨の日もお出かけしようじゃないの。ほれほれ、羽織ってみなさんな。ね、ね。よーし。

ほーら、これでバッチリ。最高のコーディネートだ。見た目だけじゃなく、質も最高なんだよ。一つ一つ脚作業で作ってるもんで。それに、使ってる糸が良いんだよ。なんせ、私がこの体で紡いだ糸だからね。

え?何だか体がベタベタしてきたって?


フフフフフ

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