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本のこと「今日もいち日、ぶじ日記」「富士日記」
きのうから金木犀の匂いがする。
こどもの頃は夏が好きだったけれど、いまは秋がいちばん好きだ。空が高く透明になって、さーっと乾いた風が吹くようになると、じんわりとうれしさがこみ上げてくる。待ってたよ、やっとだね、って心持ちになる。
ひんやりしてくる夜中や明け方に、猫たちがタオルケットにもぐってくるから、そこで目が覚めて眠れなくなったりもする。そしたら小さく枕もとの灯りをつけて本を読む。いま読んでるのは図書館で借りた、高山なおみさんの「今日もいち日、ぶじ日記」
料理家の高山さんが、山梨の里山に買った「山の家」。茅葺の古い大きな家と雑草だらけの荒れた庭を、夫のスイセイさんと手入れしていく。高山さんも武田百合子さんが好きだそうで、武田さんの「富士日記」のような山の家での暮らしを書いてみたいと思ったのだそう。
私も、武田百合子さんの本では「富士日記」がいちばん好きだ。富士山麓の別荘での日々を描いた日記なのだけど、武田さんの目を通して淡々と語られる情景は、余計なものがなくてそのまんまで、でもこんなの武田さんにしか書けないなぁと感じ入る。
女のひとの書いた随筆やエッセイが昔から好きなのは、暮らしの匂いがするから。洗濯ものを干したり、スーパーで野菜をえらんだり、台所で鍋を火にかけながら書き物をしていたり。
高山なおみさんも、武田百合子さんも、日記にその日の献立を書き記している。手の込んだ料理の日もあれば、出来合いのお惣菜、インスタントラーメンの日もある。
ご主人と喧嘩したり、泣いたり。でもお腹がすいてごはんを食べる。そういうあけすけな、生きてるっていう手ざわりがするところ。女のひとの書く文章の、そういうところがすごく好きだ。
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