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おばあちゃんへ

たぶん私の一番最初の記憶はね、おばあちゃんと寝起きしていた部屋の、絨毯のオレンジ色だよ。お仏壇のあったあの部屋の。

お姉ちゃんは隣の部屋で、お父さんお母さんと寝てたよね。お姉ちゃんは体が弱かったから、夜中にお父さんの車で病院へ行ったり、入院したりもあったね、私はうっすらとしか覚えてないけど。

だから私は、自然とおばあちゃんっ子になってた。お父さんお母さんが仕事に出かけて、お姉ちゃんも幼稚園へ。そのあいだはずっとおばあちゃんと過ごしてた。

おばあちゃんはいつも畑をやってて、私はその傍らでおままごとをしてたよね。プラスチックの、ピンクや赤のおままごと用の食器と、古くなった陶器のお茶碗。そこに摘んだ草や花をごはんにして。

ときどき、おばあちゃんが小さなじゃがいもや野菜をくれたよね、それを使ってするおままごとは本格的ですごくうれしかった。大人になったみたいで。

おばあちゃんの畑は広くて、隣にはお茶畑もあって。濃い緑色の葉っぱがつやつやしてたね。ふきのうすみどり色、筍の皮の毛が生えてるの、椎茸のこんもりした茶色と裏の白いひだひだ。

みんな、おばあちゃんの畑や山で採れたんだよね。すごいことだったんだな、豊かだなぁって、いまになってよく思うの。

小学校に入って、三年生の頃だったかな。おばあちゃんのお世話焼きがうっとうしく感じられることがあって、口ごたえするようになって。おばあちゃんを泣かせちゃたことあったよね。

いまでも思い出すときゅっと胸が痛む。

目をしばたかせて、涙をぬぐってるおばあちゃんの顔。あのとき私はそれをどんな表情で見てたんだろう。

おばあちゃん、私ね。

お母さんお父さんには反抗できなかったんだ。そして甘えることもできなかったの。うんと小さい頃から、さびしいとき、心細いとき、甘えたいとき、そばに居てくれたのは、いつもいつもおばあちゃんだったの。

口ごたえすら、おばあちゃんに甘えてたんだなって、あとになって気づいたよ。おばあちゃんが私のことをぜったいに受け入れてくれるって無意識にわかってたんだね。

泣かせちゃってごめんなさいって、言えなくてごめんなさい。

おばあちゃんと畑で過ごしてたあの頃、私すごく幸せだったんだなぁって、このごろよく思い出すの。

陽が傾きはじめたオレンジ色の空の下、お夕飯で使う野菜を採ってるおばあちゃんを見てた、あのとき私の目には、綺麗なもの、しあわせなものしか映ってなかったんだね。

#おじいちゃんおばあちゃんへ


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