『鰯賣戀曳網』の話

どうも、私です。

今日は、「第12回 シネマ歌舞伎の話」をします。


ハッピーエンドな勘三郎さんです。


お付き合い下さい。

『籠釣瓶花街酔醒』を見て、圧倒的バッドエンドにぐったりした私達姉妹。

姉「ハッピーエンドな勘三郎さんを見ないと、身が持たん…」

私「ハッピーエンドを下さい…」

と本作上映を心待ちにしていた。

三島由紀夫の作品と知ったときは、


え、三島由紀夫?
本当にハッピーエンド?


と圧倒的偏見かつ失礼なことを考えてしまったが、とんでもない。

見た人、誰もが幸せな気持ちになる作品だった。


※ここから先、ハッピーエンドなネタバレがあります。ご注意下さい。


  • 玉三郎さんの眼差し

上映が始まって間もなく、主人公の鰯賣・猿源氏(中村勘三郎さん)と遊女・蛍火(坂東玉三郎さん)の着物が飾られた舞台とそれを見つめる玉三郎さんが映し出された。

玉三郎さんの舞台を見つめる眼差しは懐かしそうで、勘三郎さんとの思い出を語る口調は優しく暖かだった。

この場面だけで、泣きそうになった。


  • 鰯賣の恋

物語は、猿源氏の父・海老名なあみだぶつ(坂東彌十郎さん)が息子である猿源氏の様子を見に来るところから始まる。


いや、お父さんの名前のクセ。笑


そこへ、元気のない猿源氏が鰯が入った籠を背負ってやって来る。

猿源氏「伊勢の国に阿漕ヶ浦の猿源氏が鰯買うえい…」

海老名「そんなへなへなした声で売り歩いていたら、鰯が腐るわい!」

猿源氏「だって…」

と猿源氏は、川風に吹き上げられた輿の御簾の隙間からチラッと見えた蛍火の姿を見て、恋に落ちたことを海老名に話して聞かせる。

海老名「なるほどな…。お前、恋の病にかかったか」

猿源氏「はい…」

海老名「よし、いいことを思いついた!」

と海老名は猿源氏とその場に居合わせた博労六郎左衛門(市川染五郎さん(現・松本幸四郎さん))にこう提案した。

海老名「上洛の噂がある大名がいるから、お前、その大名のふりをしろ。私と六郎左衛門もついて行く」

猿源氏「でも、バレません?」

海老名「猿源氏」

猿源氏「はい」

海老名「私だぞ(ドヤァ」

と廓に通ったことがある海老名の手引きで、猿源氏は大名のふりをして、蛍火に会いに行くこととなる。


  • 対面

蛍火と対面することになった猿源氏は、緊張感MAXでその時を迎えた。
やって来た蛍火は美しく、猿源氏を手厚く迎えた。盃と銚子を用意してもらった彼は、興奮から、蛍火に仕える禿を突き飛ばすようにして銚子を手に取り、彼女の持つ盃に酒を酌んだ。

その間ずっと、禿が「は?」と言いたげな冷たい眼差しで猿源氏を見ていて私も姉も笑った。

蛍火「殿様も、どうぞ」

と言われ、震える手を何とか抑え、盃を受け取る猿源氏。何杯も飲み続ける姿に海老名も六郎左衛門も心配そうに見つめる。

遊女「殿様。合戦の話を聞きたいのですが」

猿源氏「…え」

聞きたい、と盛り上がる遊女達。戸惑う猿源氏と彼の失敗を恐れて耳を塞ぐ海老名と六郎左衛門。

海老名「終わった…」

六郎左衛門「あーあ…」

と呟く2人。すると、お囃子さんが2人登場。
猿源氏(というか、ほぼ勘三郎さん)は、助けを求めようと2人に必死に手を合わせた。


すると、お囃子さんは無視を決め込んだ。


姉「無視したwwwww」

私「最悪やwwwww」

覚悟を決めた猿源氏は、話を始めた。
しかし内容はめちゃくちゃ。鯛や平目など、登場人物達の名前は全て魚。

海老名「絶対バレる…」

六郎左衛門「本当に終わった…」

と心配される中、猿源氏は無事に話を終え、遊女達からも歓声が上がった。そして、再び蛍火と酒を酌み交わすうちに、彼は眠りについた。


  • 2人が辿り着いた真実

眠りについた猿源氏は、蛍火に膝枕をされながら呟いた。

猿源氏「伊勢の国に阿漕ヶ浦の猿源氏が鰯買うえい…」

蛍火「…何て言ったのかしら。もう1度言ってくれないかしら」

猿源氏「伊勢の国に阿漕ヶ浦の猿源氏が鰯買うえい」

蛍火「…鰯?猿源氏?もう1度言ってくれないかしら」

猿源氏「伊勢の国に阿漕ヶ浦の猿源氏が鰯買うえい!!!!!」

蛍火「…やっぱり、鰯賣の掛け声だわ!」

蛍火の言葉に応えるように、段々と大きくなる猿源氏の掛け声に笑いが起こる。

姉「声がデカい。笑」

私「あーあ、バレる。笑」

蛍火は、猿源氏を起こすと聞いた。

蛍火「殿様。あなたは、本当に殿様ですか」

猿源氏「…そうですよ?」

蛍火「じゃあ、どうして鰯賣の掛け声を寝言で言ったんですか」

猿源氏「いいいい、言いませんよ」

慌てふためく猿源氏に、蛍火はため息を吐いた。

蛍火「…そうですか。あなたは、鰯賣ではないんですね…」

喜ぶどころかそう言って泣いた後、蛍火は話し始めた。

蛍火「…私、実は紀伊の国の姫なんです」

猿源氏「…え?」

蛍火「10年前のある日、鰯賣の方の声を聞いて恋をしてしまって…。それが、さっき、殿様が寝言で言っていた鰯賣の掛け声で…」

猿源氏「…ん?」

蛍火「彼に会いたくて城を抜け出したら、道に迷った挙句、人買いに拾われてしまって…」

猿源氏「…ん?????」

蛍火「でも、鰯賣の方こそが我が夫であると諦めきれなくて、いつも持っている観音様にお祈りしていたんです。だから、殿様が寝言で鰯賣の掛け声を言ったとき、嬉しくて嬉しくて…。でも、あなたはあの鰯賣の方ではないと否定なさるから…。もうあの方に会えないのなら、死んだほうがマシです」

猿源氏「ちょちょちょちょ、ちょっと待って下さい!」

小さな観音様と小刀をチラつかせる蛍火に、猿源氏は言った。

猿源氏「白状します!私は、殿ではありません。鰯賣をしている猿源氏と申します!あなたに会いたくて、つい嘘を吐きました!」

蛍火「では、あなたが10年前に聞いた鰯賣の…?」

大きく頷く猿源氏に、大喜びの蛍火。
抱き合う2人の元に、海老名と六郎左衛門も駆けつけた。

猿源氏「想いが通じました!」

海老名「でかした!」

六郎左衛門「おめでとうございます!」

蛍火「でも、ここから出るにはお金が…」

次郎太「姫様、お待ちを!」

やって来たのは、薮熊次郎太(片岡亀蔵さん)。
蛍火を探すために、庭に忍び込み、様子を伺っていたのだ。

蛍火「あなたは、さっき庭掃除をしていた…」

次郎太「薮熊次郎太と申します。姫様の行方を探していました!どうぞ、私と城にお戻り下さい」

蛍火「戻りません」

次郎太「えーーーーー!!!!!」

蛍火「次郎太。あなた、私を探していたということは身請け金を持っていますか?」

次郎太「…はい。ここに」

身請け金に相応しい額を持って来ていた次郎太。
蛍火はそれを主人に支払うと、宣言した。

蛍火「私はこれをもって遊女を辞め、城へは戻らず、猿源氏の妻となります」

猿源氏、海老名、六郎左衛門「おーーーーー!!!!!」

次郎太「えーーーーー!!!!!」

蛍火「紀伊の国へ行くことがあれば、鰯賣の掛け声で呼びかけますから。そのつもりで」

次郎太「いや、しかし、その…」

蛍火「私が決めたことに文句がありますか」

戸惑う次郎太に威厳を見せる蛍火。その後ろで、猿源氏がドヤ顔で畳を叩くのを見て、私達は笑った。

蛍火「私は、この方と廓を出ます。退きなさい」

次郎太「しかし…」

蛍火「私の言うことが聞けないのか!」

蛍火の威厳ある姿に、全員がひれ伏す。
もちろんその中には猿源氏もいて、蛍火は彼の顔を上げさせると言った。

蛍火「旦那様。鰯賣の掛け声を教えて下さい」

猿源氏「分かった」

と刀を籠に見立てて動作を説明した後、猿源氏は叫んだ。

猿源氏「伊勢の国に阿漕ヶ浦の猿源氏が鰯買うえい!」

続いて、蛍火も猿源氏と同じく叫んだ。

蛍火「伊勢の国に阿漕ヶ浦の猿源氏が鰯買うえい!皆さんも一緒に」

蛍火に言われるまま、海老名と六郎左衛門も続く。

海老名、六郎左衛門「伊勢の国に阿漕ヶ浦の猿源氏が鰯買うえい!」

その光景に、戸惑いを隠しきれない次郎太は刀を抜いた。

次郎太「姫様を連れ帰ることが出来ないなど、申し訳が立たない。自害します!」

しかし、刀は錆びていた。

海老名「気持ちは分かるけど、やめたら?」

次郎太「うっ…」

仕方なくと言った形で次郎太も2人を受け入れ、海老名や六郎左衛門達に見送られて、猿源氏と蛍火は手を取り合って廓を後にした。

猿源氏「では、蛍火。行こうか!」

蛍火「はい、旦那様!」


終演後。
私達は、ハッピーエンドに頭を抱えた。

姉「最高かよ…」

私「可愛すぎか…」

姉「お互いに両想いだしさ…」

私「よかった。ハッピーエンドで」

姉「ほんでさ、」


蛍火と次郎太は、『願いが叶わないなら死ぬ』精神やめなさい。笑

それな。笑


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