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ゲーム産業の一極化への提言

クリエイターは上京すべきという固定概念

私は福岡を拠点にゲーム制作をしていますが、生まれてから48年間これまで一度も県外に住んだことがありません。生まれ育ったのが福岡県の片田舎だったので、プチ上京した福岡市で満足できたと言うのもありますが、僕が40歳まで本業としていた建設業界は、地方でも食べて行くのに十分な仕事があるので上京する必要がなかったのが一番の理由です。

ただ、クリエイターの共通認識として、成功を目指すにはとりあえず上京して最先端のトレンドに触れてチャンスを掴まなければ、という考え方は固定観念としてずっとあると思っています。特に、建築業界に比べるとゲーム産業は大都市を中心に回っているように感じます。
現に我が国のゲーム会社の売上トップ30社はほとんど東京都に本社があり、例外は任天堂(京都)、カプコン(大阪府)、日本一ソフトウェア(岐阜県)くらいです。

またゲームの展示イベントも然りで、東京ゲームショウはもちろん東京開催で、デジゲー博もずっと東京開催。BitSummitも京都だし、大きなイベントの開催は東京と関西だけの状況です。
このようにゲーム会社の大手が東京や関西圏に集中しているため、地方出身者がゲーム開発に携わるには、東京か関西に上京した方が良いと思うのも当然の流れだと思います。

もし地方に留まってゲーム制作に携わったとしても、イベントで展示するには、やはり東京か関西まで足を運ぶしかありません。
大きなイベントに出展するとなると、何日間もホテルを借りて参加せねばならず、九州のような遠方から行くことになると交通費や宿泊費で10万円を超えることになり、インディーゲームの規模の制作者には大きな負担です。
パブリッシャーがついていない個人クリエイターが、遠征費を負担して参加するのは、正直ハードルが高いと言わざるを得ません。

2年前に福岡インディーゲーム協会(FIGA)を立ち上げたのも、東京や大阪まで気軽に行けない九州の人たちが参加できるようなイベントを、福岡で開催したいという思いからでした。
協会発足からこれまでにゲーム展示イベントを3回ほど開催してきましたが、九州各地から多くの人が参加されて、初めてイベントに参加できた!ゲームを作ってよかった!と感謝の言葉もいただきました。

あるイベントで、東京から来られていたゲーム関係者から「こんな才能がまだ九州にいるんですね!」という言葉をかけていただいたことがありました。
その方曰く、福岡には東京や大阪のイベントでは見かけたことがない人が多く出展していて新鮮だったと。つまり裏を返せば、福岡・九州のゲーム制作者はほとんど東京や関西のイベントに行っていないということになります。実際、今回のBitSummitも、私の周囲で京都まで足を運んだ人は少なかったように思います。

チャンスは東京にしかないのか

正直、九州のクリエイターも首都圏にいるクリエイターも、実力はそんなに変わらないはずです。でもイベントに気軽に参加できてゲーム会社やメディア関係者と会える首都圏の人の方が、巡ってくるチャンスが多いのは間違いないと思います。

では地方のクリエイターがゲームで成功するには、やはり上京するのが正解なのでしょうか。

先日、FIGAが開催した交流会に、カナダからの移住を決めたという方が参加されましたが、その方は東京や大阪ではなく、最終的に福岡へ移住することを決めたそうです。
その理由は、福岡は自然が多く人も朗らかでバンクーバーに似ている、生活費も安くて住みやすいからと言うシンプルな理由で、大きなゲーム会社があるかどうかは全く気にしていないようでした。
小規模だからこそ、どこでも誰でも挑戦できるのがインディーゲームの強みであって、それならコストが抑えられて住みやすい街で作るのが一番良いに決まっています。家賃20万の街と7万円の街とでは生活コストが3倍も違う。つまり、ゲーム製作にかけられる余裕が3倍あると言うことです。

彼の判断は合理的だと思いました。でも日本のクリエイターは、大都市で成功しなければ意味がないと考えがちです。日本人は「東京」というブランドへの憧れが強すぎて、地方は上京するまでの足掛け、くらいに軽んじる傾向があります。この考え方だと「地方を軽んじる→東京しか見ない→地方の発信力が下がる→地方を軽んじる」という悪循環が繰り返されます。だからどれだけコストが掛かっても、みんな東京に固執してしまう。
でも、それはゲーム産業の一極化がますます進むだけで良いことではないと思っています。

では地方を拠点にしているクリエイターが、発信力や注目度を得るにはどうすればいいのでしょう。
理想は、東京や京都に続くゲームのビッグイベントが地方でも開催されて、全国どこにいても出展しやすい環境ができることだと思います。しかし東京ゲームショウやBitsummitはただのゲーム展示イベントではなく、世界中からゲーム関係者が集まる国際的なゲームの祭典です。先日のBitsummitに足を運んで改めて思ったのは、この規模のイベントを東京や関西以外の都市で開催するには、リソース(人材、資金、発信力)が不足している地方では相当ハードルが高いということでした。

以前、イベント会社の方とお話しましたが、福岡市は人口が160万人もいるのに、関東のもっと人口の少ない都市に比べてイベントの集客がしにくいとのことでした。その理由はやはり東京からの距離の遠さ。それに輪をかけてゲーム系のイベントは、ゲーム産業が東京と関西圏に集中していることもあり、地方のイベントにはなかなかお金が集まらないそうです。

福岡インディーゲーム協会はありがたいことに、自治体の福岡市や地元のゲーム産業からの協力が得られていますが、それでもイベントの資金集めや会場探しには毎回苦労しています。東京のイベントにはまとまったお金を出す企業も、福岡のイベントでは10万円すらお断りされる状態です。

最近は地方創生などと叫ばれていますが、実際には地方にお金を落としてくれる企業は少ないです。それは企業にとって重要な注目度が低いからで、至極当然のことです。
辛辣な言い方をすれば、ほとんどの人が地方に興味がない。いくら声を大にして叫んでも振り返ってはくれません。

だからといって、地方では集客できないから、大きなイベントは東京や関西に任せたほうが合理的じゃないか、という考え方には全く同意しません。

昨日、我が子の同級生のお母さんと偶然立ち話をしたのですが、大学で情報工学を学んでいた息子さんが、卒業後は就職はせずにゲーム開発をしたいと言っているらしく、進路を心配している様子でした。
私は協会の名刺を渡して、もし息子さんがゲーム開発の仲間を探したり勉強をしたいのなら、FIGAでイベントや勉強会を開催しているのでぜひ参加してね、と伝えました。
もし東京や関西にしかイベントが無かったとしたなら、右も左もわからない迷える彼のような若者に遠方のイベントを勧めるしかありません。しかし果たして誰がそこまでして足を運ぶでしょうか。そんなことができるのは相当な覚悟とお金を持った一握りの人だけでしょう。
私達がイベントを開催しているのは、彼のようにゲーム開発に興味を持ち始めた、駆け出しの挑戦者を応援したいからです。だから私達はお金が集まらない小規模なイベントでも開催し続けますし、どんなに無視されても振り向いてくれるまで声を上げ続けるつもりです。

福岡で開催されるゲームイベント

今年の3月に福岡インディーゲームエキスポというインディーゲーム展示イベントを、キャナルシティ博多という商業施設で2日間開催しました。
福岡に住んでいる人ならわかると思いますが、キャナルシティ博多は福岡県民なら誰でも知っているし一度は行ったことがある大規模商業施設で、海外からも多くの観光客が訪れる観光スポットの一つとなっています。

キャナルシティ博多は劇場型のアミューズメント要素を持った商業施設(HPより拝借)

このような素晴らしい施設で2日間も開催できたのは、キャナルシティ博多の運営事務局の方から「福岡を盛り上げるためなら是非うちを使ってください」というありがたい提案をいただき、なんと機材の貸出から会場代まで無料でご提供いただけたからです。

おかげさまで40組のインディーゲームを展示でき、2日間の開催で700名を超す来場者にインディーゲームを体験していただけました。
ただこのイベントもスポンサー集めは難しく、キャナルシティ博多様の協力無しでは開催は不可能でした。
https://www.fukuoka-indiegame.com/福岡ige2022-テキストレポート

300坪の会場に40ブースのインディーゲームを展示

この会場はたまたま空きテナントがあったためにお借りできましたが、来年はどこで開催するか白紙状態です。でも来てくれた人たちが喜んでくれたので、来年も絶対に開催したいと思っています。

福岡でも最近では学生さんを中心としたイベントや勉強会が開催されていて、随分学びの環境が整ってきました。またCEDEC+KYUSHUのような大きなイベントの中で、昨年からインディーゲームが取り上げられるようにもなってきました。
そこで、近日開催予定のいくつかのイベントを紹介します。

■ 8月4日開催:家庭向けプログラミング教育イベント「アルゴガーデン」 
福岡の学生によるゲーム制作コミュニティ「作るっちゃん」がインディーゲームを展示します。(FIGAも協力しています)

■ 8月29日開催:九州学生ゲーム大祭
九州の学生を中心に多数のサークルがゲーム展示をするイベント。学生以外の一般作品も出展予定。

■ 11月23日開催:CEDEC+KYUSHU 2024
コンピューターエンターテイメント開発者向けカンファレンCEDECの九州版。
去年に続き、会場内にインディーゲーム開発者が無料で出展できる「インディーゲームコーナー」を設置。FIGAも特別協力として参加させていただきます。
出展作品も募集中です(8月末締め切り)

また、CEDEC+KYUSHU 2024の協賛プランの中には、本企画及びインディーゲーム開発者を支援して頂ける企業様向けの「インディーゲームコーナー特別協賛」が用意されています。

インディーゲームコーナー特別協賛(10万円 2社程度)
・インディーゲームコーナー入口サインへのロゴ掲載
・インディーゲームコーナーで配布するリーフレットへのロゴ掲載
・インディーゲームコーナー紹介Webページにロゴ掲載
・インディーゲーム出展者に代行でメール配信(1回)
・各種プロモーション媒体でロゴ掲載(小)
・招待参加レギュラーパスの提供【最大2名】
・受付でのチラシ等配布(1種 1,600部まで)
・セッション間のPV上映(15秒)

地方のインディーゲームを応援したいという企業様がいましたら、是非ご協賛をご検討頂けますと幸いです。

最後に提案とお願い

地元のクリエイターを応援したいという同士は、日本各地にいると思っています。私はFIGAの会長なので、今後もイベントは福岡で行っていくつもりですが、地方の有志が結束して、イベントを開催するのも面白いかなと思っています。例えば九州の各県が持ち回りでインディーゲームの展示会を行う(九州インディーゲームフェス)または九州と北海道が同時のタイミングで行い中継で会場をつなぐ(南北合同インディーゲームフェス)など。地方が注目されるためには、互いに力を合わせて発信力を高めていくしか道はありません。
東京に敵うわけ無いよ、と諦める前に試してみるべきことはまだたくさんあると思っています。

あとはお願いとして、このnoteを読んでくれた人の中で、一緒に地方のゲームシーンを盛り上げていきたい!と手を上げてくれる人が一人でもいれば、ぜひアイデアを出し合いたいので、ご連絡をください。個人だけでなく企業でも大歓迎です。
よろしくお願いします。

福岡インディーゲーム協会メールアドレス
info@fukuoka-indiegame.com


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