ベテルギウス
反対を押し切って県外の大学へ進学して以来、父とは折り合いが悪く、そのせいもあって実家にはあまり寄りつかなくなっていた
その父の訃報が届いたのは、日差しにまだ暖かさが残る11月のよく晴れた日曜日だった
数年ぶりに帰った実家では、母や姉が葬儀に関わる事柄を一つ一つ慌ただしくこなしている中、僕だけが所在なげに、時折訪れる親類との挨拶や世間話の相手をするうちに通夜を迎えた
深夜となり弔問客も途切れるようになったころ、僕は母の許しを経て一人近所の公園へ散歩に出かけた
住宅街の中にある公園は一つの街灯で事足りるほど小さく、僕はなんとなく目に付いたブランコの一つに座ると、ゆらゆらと小さな揺れに身体を預け、今日一日のことをぼんやりとふり返ってみる
交通事故で突然逝ってしまった父の最後の様子は、病院へ駆けつけた母と姉が、事故係の警察官と搬送した救急隊員から聞いていた
歩道に乗り上げ父を跳ね飛ばした車はかなりスピードがでていたこと
救急隊員が到着したときには既に父は息絶えていたこと
散歩中だった父はスマートホンを握りしめたままだったこと
即死に近かったので痛みを感じる間もなく亡くなられたと思いますよ、と慰めにもならないことを承知で事故係の担当者が語ったこと
来訪者が一通り眠りについた後、父が横たわる棺の横でぽつりぽつりと母が話した
父が使っていたスマートホンのパスワードを生前より聞かされていた母は、悼む思いで開いてみると、父が最後に観ていた頁は僕が通う大学のホームページだったことを母は付け加えるように話してくれた
公園のブランコで母の言葉を反芻しながらふと空を見上げると、そこは満天の星空だった
小学生の頃、星を観察する宿題のため、父と庭先に出て一緒に夜空を見上げ、いろんな星座の名前や星の成り立ちを話してくれたことを思い出す
あの日父と観た一際明るく輝く星を、今夜また夜空に見つけたとき、溢れる涙を堪えきれなくなった僕は、声を殺し
静かに泣き崩れた
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