小説「死ぬ準備」⑥これぞ長生きの薬
「死ぬ準備」をする、ドンなんでもいい、形式なんか、なくていい。家族や友人と気楽に話し合ってみる。地球上のすべて生き物は一定時間生きると終わる。陽炎のように短い、時間の場合もあれば、象さんやクジラのように長い時間の場合もある、でも、どっちにしても終わるときは終わる。だから気楽に生きよう。癌をもっていても、実はあいつも必死で生きている。その結果こっちの分が削られる。いってみてみれば仲間。そう思えばかわゆくなる。
増殖ってさ、実は死の臭いがする。人間も気がついたら八十億に増えていた。国も二百近くある。だれも深刻に考えていないが、食糧難は目前に迫っている。そんなときには奪い合って殺しあうより、譲り合って、少し食べたた方がいい。
戦前戦後の混乱期を生きぬいた軍国少年世代にはそれが分かる。いや、あんなもんじゃ、今後はすまない、だろ。なのに敵味方、わざと峻別して、云いがかりつけて、原爆やミサイルをせっせと作って、国民が飢えてるのに、バカじゃないの?
「そう思わんか」
「まあな」
いまじゃ高層ビルは建ち並ぶ。街は美しい。でも最近はめっきり人が歩かなくなった。コロナの関係もあるだろう。それだけじゃない。外出そのものを嫌っている。外に出れば何らかの危険がある。コロナウイルスに感染する。すると隔離される。そのまま袋詰めにされて火葬場に運ばれる場合もある。感染を断つためだ。自宅にいればその危険はない。パソコンがあれば仕事もできる。問題はそんな優雅な仕事でないパートアルバイトの人だ、危険を冒して職場に向かう。すでに歴然たる格差が出来上がっている。
高層マンションも売れなくなった。高層に棲むと血圧が騰がる。精神が不安定になる。人間は高層に馴れていない。サルじゃないんだ。閉鎖的な場所に住みたくない。地震がくれば建物は大きく揺れる。ビル酔いする。郊外地の一戸建てへ脱出したい。
生き物は敏感なのだ。都会から逃げ始めている。いまに、都市は美しい廃墟になるだろう。いや美しくなんかない。定期的に手入れされない樹木は放埓に枝葉を茂らせる。獣が住み着くようになる。人間がエサになる。ふぇっ?
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満85歳。台湾生まれ台湾育ち。さいごの軍国少年世代。戦後引き揚げの日本国籍者です。耐え難きを耐え、忍び難きを忍び頑張った。その日本も世界の底辺になりつつある。まだ墜ちるだろう。再再興のヒントは?老人の知恵と警告と提言を・・・どぞ。