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アインシュタインの新理論を聞かされる

 調べものがあって図書館に寄る。
 スマート・フォンが今後、わたし達の生活にどれだけの影響を与えるのか、その動向を知りたいと思ったのだ。
「えーと、この本から見てみるとしようっと。『アンドロイドは電気林檎の夢を見るか?』」

 席に着いてしばらく読んでみるが、わかりきったことしか書いてないのですぐに退屈してしまう。
 頬杖をついて向こう側のテーブルに目をやると、どこかで見たような顔があった。
「誰だったっけかなぁ。よく見かけるんだけど……」
 ようやく思い出す。アインシュタインだ。

 世紀の有名人に巡り会えた幸運に感謝して、わたしはそばに駆け寄った。
「あのう、アインシュタイン博士でいらっしゃいますよねっ?」
 アインシュタインは読んでいた本から顔を上げ、にっこりとうなずく。
「ええ、いかにもわたしがアルベルト・アインシュタインです」
 わたしはうれしくなって、思わず握手を求めてしまう。アインシュタインは、大きな手で力強く握り返してくれた。

「こんな小さな図書館なんかで、何を読んでらしたんですか?」わたしは尋ねた。
 アインシュタインは本の表紙をわざわざ見せてくれる。
「なあに、大昔に書いた自分の本ですよ」
「あ、『相対性理論』ですね。でも、なぜ……」
「なんせ、あの時分は大急ぎで書いたものでしてね、誤字・脱字がなかったか、ずっと気にかかっていたのです」 
 アインシュタインほどの人物でも、そんな些細なことが気になるものなのか。わたしは、このエキセントリックな博士がますます好きになった。あまりにも人間臭い。

「ところでね、あなた」アインシュタインは、改まった口調で切り出す。「わたしは、またまた新しい理論を思いついたんですよ。よかったら、ちょっと聞いていただけますかな?」
「ええ、ぜひ!」驚きとまどいながらも、このうえもなく光栄なことだと感激した。
「おおっ、ありがたい。ニーチェの永劫回帰は、実は特殊相対性理論から導き出せる、そう確信を得たのですよ。少し長くなりますが、どうか、最後までお聞き願いたい」
 アインシュタインは語り始めた。
 
「われわれの住むこの宇宙は有限と考えられます。そして、幾度となく繰り返されているわけです。それぞれは有限であっても、その繰り返しが永遠に続く。つまり、宇宙は無限、ということになります……」
 窓から夕日が差しこみ、やがて夜になる。再び朝がやって来て、長い1日が過ぎ、日が傾く。
 アインシュタインの言説は始まったばかりだ。

「……すなわち、ニーチェは哲学的な視点に立って、これらのことを説いたのです。科学も哲学も、宗教も芸術も、根幹のところでは全てが1つです。最終的に、求めているのは同じというわけなのです」そう締めくくって、ついに新理論は何もかも吐き出された。
 気がつけば、あれからすでに100億年もの歳月が過ぎ去っていた。  

 わたしは最後に質問を投げかけてみる。
「では、命あるものは誰も、『永劫回帰』に捕らわれたままなのでしょうか?」
 博士は静かに首を振るのだった。
「『永遠』といえども、振り返ってみればあっという間ですよ。やがて来るその時こそが、『真の終わり』と言えましょう」

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