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OneDayチャレンジのススメ

「早く行きたいなら一人で行け、遠くへ行きたいならみんなで行け」

 アフリカのことわざとされているフレーズであるが、なにか複雑なことを学習するとき、誰かの知恵を借りたいと思ったとき、私はOneDayチャレンジというものを行う。これをやると、勝手のわからないジャンルの事柄であっても、その日の終りにはその分野の知識のあらましに加えて何かしらのプロダクトや作品まで手に入るというスグレモノである。

 OneDayチャレンジとはなにか。一日限定で複数人が集まり、互いの興味に従って学びを深める会である。「学びを深める会」とは硬い表現ではあるが、要はちょっとしたイベントっぽくした仲間内の学習会の程度だ。私はよくIT関連の勉強をするときにこれをやる。もう20回くらいは開いているが、大抵やったあと参加者から「有意義な時間だった」と言ってもらえる。特別なことではないのだが、ここに自分なりのルールをメモっておく。

得られるメリット

OneDayチャレンジをするとどんないいことがあるか。
・お互いの知識が深まる。教えることは最も高度な学習である。
・実績が残る。ポートフォリオに追加できたり、日々の業務や趣味の活動に流用することもできる。
・仲間ができる。

必須ルール

一日限定。開始と終了の時刻も決める。結構厳しくぶち切る。一日中とか午後いっぱいなど一日の大半の時間を使う。
複数人でやる。人数規模は2~4人程度。だいたい3人くらいがいい。
ターゲットを決める。各人のニーズに適合する最適なターゲットを毎回決めていくことが味噌。みんなの興味がある事柄をターゲットにする。
成果物を必ず出す。目に見えるもの、動くものを最後に完成させる。できは悪くて構わない。
楽しくやる。もっとも大切なルール。上記のルールはこのためにある。

推奨ルール

補助的ルール。あるといいよね。
・お菓子などがあるとよい。
・外部のスペースを借りると吉。誰かの家だとだらける場合がある。コワーキングスペースが借りれるなら最高。
・延長戦ありタイムリミットを過ぎたのに成果物の完成度が高くない、ただメンバーのやる気が高まっていた場合、別日にもう一度OneDayチャレンジをしてもよい。(いまだかつてなけれど、連続でOneDayが続くようならプロジェクト化した方が良い)

アイテム

あったら便利なアイテムたち
Hackmd:テキスト共有ツール。ログインなしで複数人が同時書き込みができる。公開設定も楽々。マークダウンでかける。
slack:言わずと知れたチャットツール。その場でURLの共有等も楽にできる。OneDay前後の調整等も楽になる。
・プロジェクタ/モニター:全員が同じ画面を共有できるといろいろ捗る。
・ホワイトボード:講義をしたい/してほしい場面は意外と多くでてくる。

具体例:バイオ・インフォマティクスOneDay

 実際OneDayチャレンジをどんな文脈ではじめてどんな成果がでたのか。生物学に詳しい友人を召喚して行った会を紹介する。

 一時期私はテッド・ネルソンのハイパーテキスト概念や、ジュリア・クリステヴァのインターテキスト概念と、セントラル・ドグマがテキストから情報を読み取ってRNAたちがタンパク質を構成している一連の流れを知り、実際に塩基配列をグラフィカルに表したり、生命情報のオーダーから何かを読み取ることができないかということを考えていた。(生命情報とテキストの関係性は今でも考えている)しかし自分は文字の羅列をプログラムで操作したり、色付けでモニターに写す方法は知っているが、どのような生物のゲノムがどこのDBにあるのか、塩基配列のどこを読めば自分のやりたいことを実現できるのか、そもそも同じ生物種でゲノムは全て同じなのか、そういったことも全くわからなかった。

 生物学の分野で、テキストとしてのゲノムを解析していくバイオ・インフォマティクスという学問分野がある。もともと実験室で細菌を培養するタイプの実験をしていた会社の同期に話をもちかけてみたところ、自分もそういう興味を持っていて、DBのありかやゲノムの読み方はわかるがプログラムはかけないと言っていた。生物学業界では実験室で試験管をふったり細胞の世話を24時間していたりする実験を「ウェットな」研究、コンピュータで演算をしながら生命現象の理論を解き明かすのを「ドライな」研究と呼ぶ。その同期はウェットな研究で生物学の修士号を獲っていた。

 お互いの興味の一致、かつ不足を埋め合うスキルがあることがわかったら、すぐOneDayの準備である。もう一人この取り組みに興味を示した同僚がいたので、3人で開催した。最初に自分がWebシステムの簡単な構造の説明、GitやPythonの基本的な構造について説明し、次に生物学修士の同期がゲノムやタンパク質の構造について基礎的な講座を開いた。午前に仕入れた基礎知識を用いて午後からは実装である。全体設計を自分がやり、このときは塩基配列のテキストデータをインプットにしたメイン処理を同期二人に任せ、自分はその他のインフラや画面に表示する部分を担当した。この会は作業分担をしているが、多くの場合作業はモブプロのようにモニターにPCの画面を映してみんなでやることの方が多い。そうした方がツッコミが入れやすく、理解が深まる。最終的に、内部的な処理をテキストボックスに細菌の名前を記入してエンターを押すとGC含有率等基本的なゲノム情報をグラフで表示してくれるWebシステムを完成させることができた。

 OneDay終了時点で、メンバーは全員(テスト的ではあるが)ゲノムを分析・表示するWebシステムと分子生物学の基礎知識を手に入れたのである。一日で独力で習得するにはかなり骨が折れる量と質であっただろう。

さいごに

 OneDayチャレンジの要諦はテーマ選びとメンバー選びにかかっている。テーマは複雑なもの、分野横断的なものだと面白い。メンバーはもっと大事だ。テーマに興味があること、そして目的を実現させられるだけのリテラシーとスキルを持った人間でないと実りあるOneDayにはならない。誰しも「これが得意だ!」というスキルがあるもの。それを興味の赴く勢いに任せて楽しく存分に発揮できるような人選とテーマ設定をしたい。

 今私はこの取り組みを人文学の分野で応用できないかを考えている。人文屋(や社会科学屋)なら読書会という千年単位で続いている知の共有プログラムがあるが、一日でアウトプットまで持っていく会というのはなかなか今までお目にかかったことはない。最終アウトプットは文章になるか、あるいは図説や写真のような表象になるかもしれない。

 最後に。なにかを勉強したいと思っている方、お互いのスキルを持ち合わせればなにかできるんじゃないかと思っている方へ。この記事が足しになれば幸いだ。


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