戻らない日々

サラは失った母を取り戻すためにセンム王国から各国々へ知恵を探しに旅をしている。昔の優しかった母はどこに行ってしまったのか______

「あたしね、色々知恵を探して旅をしてきたけど、気づいたの。母は変わったんじゃなくて元々ああだったのかもしれないって」サラは歩きながら道端の小石を蹴り続けた。「私が気づいてなかっただけで昔からああだったんだよ」彼女は自分に言い聞かせるようにつぶやいた。「でも昔は今みたいに黒い塊に乗っ取られて暴れることもなかったんだろう?」熊は尋ねた。「ええ。でもきっと彼女は我慢してたんだと思うわ。あの黒い塊は誰しにもある。」彼女は道行く人を指さした。確かに今の彼女の母親ほどではないが黒いうずまきが通る人皆の心臓あたりに見える。「あれに占領されないかどうか、それが要よ。」額に力を入れて彼女は厳しいまなざしで地面を見つめた。「母は我慢強い人よ。限界まで耐えて、乗っ取られたの。」「彼女を元に戻すことはできない。だから私たちに今できることは離れることよ。家には帰らないわ」きっぱりと言い放った。「帰らないって?」熊は驚いた。「明日からのご飯はどうするんだい?」「自分で作るのよ。例え美味しくなくてもあの黒いうずまきに私達も巻き込まれるよりはマシよ。それにそこら中に料理の書がころがっているわ」「私はもう戻らないの。」

「母が元々ああだったのかもしれないという仮説を思いついた時、すべてが腑に落ちたわ。お父様の今のお姿を見る限り加虐性は全く感じられない。私たちが脅されていたのはお父様じゃなくてお母さまだわ。お母さまの作り出した父親の幻の像に私たちは怯えさせられていたの。そうしたら何もかもが信じられなくなってきたわ。私たちが今まで認識していた物語は母の語りによるものでそれが全部妄想だと分かった今、私が信じられるものはなにもないのよ」

「お母さまは金貨の少ないお家で育ったの、だから私たちに学習をするように教えたのだわ、それは正しくはあったけど、私たちのためだけじゃないわ。彼女自身の、努力だけではどうにもならなかった叶わなかった夢を叶えるための駒よ。残念ながらそうだわ。私たちは受け入れなきゃいけないの、彼女が本当に欲していたのは彼女の夢だけだったって」

「だから私たちは今まで母の人生を生きてきたの、道理で人生が楽しくないと思ったわ。」サラはため息をついた。「これからは自分の人生の重みを背負っていかなければならない、しかも周りの人達と違って今まで1度も自分の人生を背負う機会を与えられなかったから大変だと思うわ。見た目は大人でも産まれたばかりの赤ちゃんが人生を背負う痛みを、私たちは今まとめて背負わなきゃいけないの。残念だけどこれがお母さまが私たちのためを思って道行く先の小石を転ぶ前に取り除いてきてくれた結果よ」

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