9年後のカンボジア旅行記 シェムリアップ後編 タナカダイスケ
その朝は衝撃的な一言とともに始まった。
「遺跡とかもう飽きませんか?」
場所はカンボジアはシェムリアップ、アンコールをはじめとする遺跡の町である。
発言の主は竹内、そのカンボジア旅行の航空券を手配した男である。ぼくタナカダイスケとシュウハルヤマは耳を疑った。
「えっ?」
シェムリアップから遺跡を除いたら、何が残るだろうか。それは言い過ぎか。
時を戻そう。
話題も変わる。
三人組というのは安定感がある。桃太郎のお供。西遊記もそうだ。三国志、これは魏、蜀、呉の三国もさることながら、劉備、関羽、張飛の義兄弟も三人組だ。すてきなさんにんぐみ、カラマーゾフの兄弟、ズッコケ三人組、スーパーカートリオ、コント赤信号、四千頭身、そしてぼくら、シュウ、竹内、ダイスケである。
もちろん二人組もいるだろうし、四人組も枚挙にいとまないだろう。三人組を並べたところでその安定感を証明するものではない。
が、考えてみるとぼくは三人組で行動することが多かったように思う。四人だと多すぎるし二人だと息苦しい。三人がちょうどいい、とぼくは感じる。
しかしながら、世の中の方ではそうなっていないことが多い。ホテルの部屋にしてもそうだ。三人部屋、というのはなかなかない。
ぼくらの泊ったのは二人部屋、もちろんベッドはふたつしかない。三人組だ。子どもでもわかることだが、ひとり余る。余る、わけにはいかない。部屋にソファでもあれば話は別だが、そんなものはない。となると、床で寝るか、ひとつのベッドにふたり寝るかである。もちろん、ぼくらはひとつのベッドにふたり寝る選択肢を選んだ。一晩ごとにひとりで寝られる人間を変えていくのだ。
男同士ひとつのベッドで寝るなんて初めての経験だったように思う。思い返してみるとさほど抵抗はなかったような気もする。就寝時以外も寝転がってゴロゴロしていた。残念ながらBL的な展開はない。我々は粛々と眠るだけだ。
ひとつトピックを上げるとすれば、シュウと竹内くんが同じベッドで寝ることになり、ゴロゴロしていた時、竹内くんが自分の足と足をすり合わせていた。なぜそんなことをしていたのかわからないけれど、なんかそういうことしたりしませんか?足と足スリスリ。すると、その隣でゴロゴロしていたシュウがいったのだ。
「竹内さん、足スリスリするのやめてください。ベッドが揺れるんで」
話を戻そう。旅の話だ。遺跡に飽きたとしても遺跡に行くしかないのがシェムリアップ。遺跡の町である。
どんな遺跡に行ったのかサッパリ覚えていない。9年前のことというのもあるが、あんまり興味がなかったのかもしれない。まあ、そんなものだ、
行く前には不安を持っていた食事、なぜならぼくは好き嫌いが多いからだ。しかし、まったく問題無し、なんかこのチャーハンみたいなのを毎食食べていた。毎食同じものを食べることが問題無しなのかは意見の分かれるところかもしれないけれど、少なくともぼくには問題無しである。毎食食べてもおいしく食べられる。それに、ビール。アンコールビールというビールがあって、すごく安い。旅行中ほぼビールを飲んで、昼間から酔っ払った状態だった。あ、だからあんまり遺跡のこと覚えてないのかな。
遺跡巡りを終え、シェムリアップ中心街へ。案内をしてくれたタクシードライバーのアンくんが連れて行ってくれたのはクメール・ルージュの行った虐殺に関する資料館。
ぼくが幼い頃にテレビで見た、髑髏の山が実際にそこにあった。
そこでも虐殺は行われたのだ。アンくんがぼくらに説明してくれた。世界中どこを探しても人の殺されたことのない場所は無いだろう。人が住むところでは人が殺されている。東京だってそうだ。しかし、その記憶がありふれたものであったとしても、その記憶のひとつひとつは悼まれるべきものなのだと思う。アンコールの遺跡群を作り出した手、そして多くの人を殺めた手。そこに差異は無い。それはカンボジアの人に限らず、どの人の手も。
アンくんからぼくらはメールアドレスをもらった。日本に帰ったらメールを送ると約束し、ぼくらは彼と別れた。
さて、このあたりでシェムリアップ編は終わる。唐突である。唐突だが、終わるのだ。
目指すはプノンペン。ちなみに、確か線路は通っていたが、その頃電車は走っていなかった。なんの事情かは忘れたけれど。移動手段はバス以外無い。さらに言えば、プノンペンに移動しないという選択肢も無い。なぜなら、帰りの航空券はプノンペンから飛び立つものだったからだ。ぼくらはプノンペンに移動しなければならない。バスで。
チケットは問題無く手に入れた。ちょうどイギリスのウィリアム王子の結婚式の日だったので、イギリス人がバーで盛り上がる夜の街、竹内くんがチケットオフィスでその手配をしてくれたのだ。本当に頼りになる男である。
問題はバスの座席がふたり掛けであることだ。ぼくらは三人組。ひとり余る。
ジャンケン。この公平かつ残酷なゲーム。それは一瞬で決定的に勝敗が決してしまうのだ。そして、出た結果は
ぼくと竹内くんが並んで座り、シュウはひとり、ひとりといっても座席は満席、隣にはカンボジアの人が座ることになる。
かくして6時間のバス旅に、ぼくと竹内くんはずっと喋っていた。「なんにも無いところでも半径10キロ先までしか見えないらしいですよ」「地球が丸いから?本当かな?」「『あいのり』には作ってる人に絶対バックパッカーの人いたよね。旅先で知り合って仲良くなっちゃった、みたいなの絶対経験してるよね」「そういえばインドで」みたいな話を延々、6時間。あっという間だった。
そして、プノンペン到着。「いやあ、あっという間だったね」と竹内くん、それに応えてシュウ「すげえ長かったっすよ!」。6時間見ず知らずのカンボジアの人と隣り合わせで過ごした男。
苦笑いするしかないダイスケと竹内であった(ちびまる子ちゃんのナレーション風に)
今回はここまで。次回はプノンペン編です。よろしくお願いしまーす。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?