夢の住人たち

男が眠りにつくのを見計らって、男の夢の住人たちは活動を始める。男が寝息を立て始めると、男の鼻の穴や、耳の穴、口などから夢の住人たちは這い出してくる。場合によっては瞼をこじ開けて出てくる者もいる。男が目を覚ましやしまいか見ている方がハラハラするが、男はすやすや眠っていて目覚める気配は無い。
夢の住人たちには老いも若きも、男も女もいる。かなりの人数だ。彼らは男から出てくると、男の枕元に夢の町を建設する。材料はもちろん男の夢だ。移動遊園地のように、夢の町は組み立てやすいようにできていて、夢の住人たちはてきぱき働き、あっという間にその町を作り上げる。
町が出来上がると、夢の住人たちはその中でそれぞれの役を演じ始める。よく見ると、夢の住人たちの中には男自身がいたりもするが、それは言われてみればといった程度の類似性しかもっていない。場合によっては、夢の住人全てが男の分身だったりもする。
そうして、夜の闇の中、夢の住人たちは活動する。恋をしたり、憎んだり。町には灯りが点され、微かな喧騒さえ聞こえたりする。男が寝返りをうち、夢の住人が潰されたりもする。潰されたところで、他の夢の住人たちが潰された住人の形をうまく整えて元通りにするので問題は無い。
東の空が白み出すと、夢の町を片付ける頃合いだ。夢の住人たちはまたてきぱき働き、夢の町を畳む。朝日が男の枕元を照らす頃には、夢の住人たちは男の中に帰っている。残したものが無いか、確認をした夢の住人が男の耳の穴の中に姿を消し、ほどなく男が目を覚ます。
おやすみ、夢の住人たち。

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