夢路と春【オリジナルSS】

夢路と春

「お金欲しいんだけど。」

中学に上がり、すっかり口をきかなくなった娘の久しぶりに聞いた声だった。

「いくら?なにに使うの?」

「なんでもいいでしょ!」

思春期か、と思いながら財布を開く。入っていた一万円札を三枚取り出し差し出すと、娘はあからさまにむっとした表情だ。

「…足りない。」

「なにに使うかわからないとお母さんも渡せないでしょう。なに買うのか教えて?」

「iPadとペン!あと五万出して!」

はぁ、とため息をついたのは聞かれていないだろうか。娘が小学生に上がる前に別れた元夫からは、もういつの頃から養育費も生活費も振り込みが途絶えている。塾に通わすことも出来ず、日々の生活で精一杯な中、娘には窮屈な思いをさせてしまっているのが申し訳なかった。口数こそ少ないながら、今まで不満を零すことのない娘に甘えてしまっていた部分もある。

「絵でも描くの?」

「…なんでもいいでしょ。」

「お母さんに教えてよ。」

「今まで興味なかったくせに急に干渉しないで!」

そう言い残して娘は部屋を出ていってしまった。なにも返す言葉がなかった。今は良くないニュースもよく耳にする。中学生でも身体を売ったり、性的な写真でお金を稼ぐ子もいると噂で聞いた。「うちの子に限って」は、きっと通用しない。そういう生活をさせてしまっているのだから。せっかくあの子が見つけた好きなことなら、支えてあげたい。

「…もしもし。あの、例のお話お受けしたいんですが…。はい、月30でお願いします。」

End.

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