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若者とプラダとふわふわパンケーキと

私が高校2年生のとき、初めてプラダを手にした。
確か修学旅行前だったと思いますが、母親に何度も頭を下げてようやく買ってもらったプラダのナイロン生地の三つ折りの財布
とてもシンプルな形で真ん中に光るプラダの三角のエンブレムが誇らしかったのを鮮明に覚えています。

なぜラグジュアリーブランドの財布が欲しかったのかというと、とっても浅い理由で「みんながブランドの財布を持っているから」でした。
特に女の子はヴィトンを筆頭にプラダやシャネルなんかを高校生の分際で持っていて、それ以外はなんとなく恥ずかしいとすら思っていました。
まぁ親に買ってもらってて何言ってんだか、とも思いますが、あの厳しく、ブランド品なんて一切興味のない母親がよく買ってくれたもんだと今振り返っても不思議です。
でも、私が高校生だった約20年前には、ブランド品を高校生が持っていることがある意味普通だったように思います(あくまで私の周りは、ですが…)

その頃はユニクロなんてダサい服屋の代名詞のような扱いでした。
みんなの憧れはヒステリックグラマーとか、EGOIST、ココルル、MILKなんかで、ショップバッグは必須アイテムでした。
友達はラルフローレンのカーディガンが欲しくて、ユニクロの黒のカーディガンを1990円で購入し、自分で胸元にラルフローレンっぽい刺繍をしていました。
着ている服がユニクロだとバレたら「ユニバレした」なんて言っていました(何度も言いますが、約20年前の私の周りは、です。)

今、幸いなことに大学生の若者と授業で話す機会がありますが、はっきり言って今の若者は「地味」です。
ヴィトンやシャネルの鞄を持ってきている学生なんてほとんどいないし、メイクも割とシンプルです。キャンパス内にギャル系やサーフ系、ゴスロリ系、森ガール系、裏原系、B系など、いろんなファッションを楽しんでいた人がいた私世代と比べて、みんな同じような色味や服を着ているように思えます。
もちろん服がユニクロであっても恥ずかしい気持ちは皆無です。

よく若者はお金がないから安い服しか買えない、みたいな文脈でまとめられがちですが、私にはそれだけではないように思います。

それはなぜかというと、今の若者達は2時間も並ぶ1500円のふわふわパンケーキ(プレーン)に800円のカフェオレを躊躇いなく注文できるからです。
そのふわふわパンケーキに1500円の価値がないと言っているわけではありません。
ただ、カフェで1人2000円以上の支払いに迷いがないことが、私にとっては驚きなのです。

そしてもれなく写真を撮ります。
おそらくSNSにあげるのかなぁ、と思っていますが「わたしはこんな経験したんだよ!」という記録を欠かしません。

私達はプラダの財布を手に入れることに満足していました。
つまり何か人が羨むようなモノを所有することが若者の価値でした。
買い食いを我慢してでもお金を貯めてブランド品が欲しいと思っていた世代です。

でも今の若者はさほど所有にこだわっていないように思います。
所有にこだわりがないのはカーシェアやサブスクの例でも裏付けられるのではないでしょうか。
むしろ過去の経験や今の気持ちが大切で、それが誇れるもので埋め尽くしたいという価値があるようです。
今私が何をしているのか、何を感じているかを見てほしい、他の人とは違うことをしたい、非日常を味わっていることを知ってほしいという感じで、それはある意味刹那的でもあります。

プラダの財布を持っている幸福感や満足感は年単位で継続しました。(少なくとも私は)
でも、ふわふわパンケーキの幸福感はそこまで長く続かないでしょう。(もちろん人によります)
その点から見て、今の若者は小さな幸せをコツコツ積み上げて、最終的に人と差をつけようとしているように思います。
プラダの財布がいくらだったか、もはや覚えていませんが、数万円で長らくブランドという威光を楽しめた私達
今の若者がカフェなどで一回2000円以上を払い、いろんなところを探して、見つけて、思い出を作る×複数回を考えると意外とトントンなのかもしれません。
つまり支払った金額自体はトータルであまり変わらないけど、どこに幸福感を覚えるのかが変わったのです。

幸福感や満足感は年代によって変わります。
今は私の両親が我が子と遊んでいる姿を見ると幸福感や満足感を覚えますが、当然ながら10代後半から20代前半にはそんなことを幸せだと思いもすらしなかったでしょう。
私達がブランド品の財布を持って流行に乗りたい
、でも人と差をつけたいと思っていた心理と、今の話題のふわふわパンケーキを並んででも食べたい、人に映えた経験を披露したいという心理は、モノとコトで違いはあれど、さほど変わらないのではないかと思います。

今の若者の方がいいとか、私達の世代の方が華やかで良かったとか、そんなことは大したことではありません。
むしろ私は今の若者が、ブランドや価格に影響を受けず、自分がいいと思ったものを堂々と持てることや、安くても価値があるものを見つけ出す力、そして他者への発信力の強さは純粋にすごいなぁ、と思っています。

私はまだ20年前の名残を引きずっているのか、心の底からふわふわパンケーキを楽しめません。
でもいつか、私も若者の強さを享受できるようになりたいと思っています。

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