テレビCMという魔物
テレビCMって、「やるだけでえらい!すごい!」になりがちですよね。
何でなんですかね。
大事なのは「その施策を行うことによってどういう結果が出たのか、課題に対してどれだけ進んだのか」なのだとは思うのですが。
テレビCMは関わるだけで自意識が5万倍くらいになります。
「テレビCMをやった会社です!」
「テレビCMを担当した人です!」
「テレビCMを作った人です!!!!!」と。
息を巻いて、聞かれてもないのに、自分から嬉しそうに、言いたくなります。
テレビというマスメディアに、ちょっとでも自分のやったことが入ることが嬉しいのですかね。ふつうに生きてたら届かないような壁に、ドーピングをつかって、自分の実力以上で、届いたといいますか。
テレビCMは魔物です。そして、魔物のくせに、頼りないです。
テレビCMは皆が口を出したくなります。
社長は当然口を出したいです。なぜなら多額をかけているから。
ターゲットが見たらどう思うか、ステークホルダーが見たらどう思うのか、
自社のCM以外にも当然さまざまなCMが流れていることを忘れて、
とにかく自分たちがつくる「かわいいCM」がどうなるか、を、
めちゃくちゃコントロールしたくなります。
テレビCM全盛期世代のおじさんたちももちろん口を出したくなります。ここぞとばかりに。自分たちが「つくる側」に回れた!と勘違いして。
自分たちが「若い頃に」(ここで大事なのは「今」ではなく、テレビCM全盛期の昔を思い出して、懐古的に、良い思い出的に考えるところです)見た、「名作テレビCM」といわれるものを脳内にイメージしながら、
自分たちがちょっとだけでも関わる会社が、やっとそういう「名作」を作れるのか、良い方向にしてやろうぞ、と鼻息を荒くします。
テレビCMは接点が広い分、「消費者として訓練されている」ものなので、とにかくいろんな人が口を出したくなります。
「面白い方がいいんじゃない?」「芸能人使おうよ!」「サウンドロゴださくない?」「かっこいいのがいいな」などなど、吹けば飛ぶようなうっすいコメントがたっくさん頼んでもないのに企業担当者の元にはありがたいことにも集まってきます。
テレビCMというものは大きな建築物のように、
構成される変数が想像以上に多いものです。
そもそもの企画の方向性
演出の方向性
セリフはどういう言葉にするのか
間
出演者をどうするのか、本当にタレントにするのか
BGM
サウンド
商品カットは何を見せるのか
テロップ
監督をどういう人にするのか
撮影シーンはどこにするのか
色味はどういうトーンを選ぶのか
キャッチコピーはどうするのか
放映エリアとそれぞれの量はどうするのか
放映期間はいつにするのか
放映期間内でどのようなペースで流すのか
素材は単一にするのか複数にするのか
テレビ以外のメディア用の素材も必要なのか
放映される枠はタイムにするのかスポットにするのか
ちょっと考えただけでも数多ありますし、実際に進んでいくにつれて、
増えるわかめちゃん的に要素は分裂し永遠に増えていきます。
そんな要素ビッグバンになってしまうテレビCMは、外部からのとやかくによって、さらに魔物になっていくのです。
そしてテレビCMの議論の種類としても、とかく空中戦になります。
全員が空想のものについて話す評論家になります。
代替案なき否定をする人が増えていき、代替案なき否定が増えれば増えるほど、案が腐っていきます。
議論で案を腐らせていくくらいならば、「自分たちにはクリエイティブは本当はわからない」と素直に認めて、エリア別で何案か試して、実際に結果を出したクリエイティブを選んで本格始動すればいいだけのことです。
そこに変なくだらないプライドを持ち込むべきではないのです。
そしてテレビCMにまつわる力関係も不思議です。
テレビCMは実質総合広告代理店が「掌握している」ので、いくら受注側とはいえ、極論「総合広告代理店にそっぽを向かれたら事業会社はテレビCMができない」ような構造なのです。
事業会社がテレビ局に直に連絡して、テレビCMを流してもらえるような商流ではないのです。
そして、最後に、魔物の本当の怖いところですが、
テレビCMは作っている側が思っている意識の1/10000しか、受け手にとっては興味がないのです。
会社にとっては大きなお金をつかって、かわいがって、みんなで「がんばって」議論して作ったものですが、世間一般からすれば「番組のあいだに強制的に見させられる邪魔でしかないもの」なのです。邪魔。スキップなんでできないの?!と思うものなのです。
社内で盛り上がっても、社内メンバーのSNSで盛り上がっても、実際のターゲットからしてちゃんと「気になる」ものであり、「自分の生活を好転してくれそうなもの」と感じてもらえなければ、意味がほぼないのです。
この熱量の非対称性こそが、魔物の一番こわいところかもしれません。
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