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Apple社はすでに終焉プロセスを歩んでいる。―そのプロセスの名は「Steve JobsなきApple」―

この記事は、2022年7月15日にMediumで掲載されたAlan Trapulionisの記事(https://bit.ly/3PJ3LXS)の引用です。

Apple社の緩やかで痛ましい凋落の原因がSteve Jobs氏自身にある理由。

ティム・クックは敵ではないと発言するジョブズ(flickrのiphonedigital撮影)

Steve Jobs氏(以下「ジョブズ」という)が今の Apple社(以下「アップル」という)を見たら、がっかりすることになるだろう。

「ジョブズは、一度栄華を極めた企業が衰退することはよくあることであり、その原因は市場を独占すると、イノベーション(技術革新)が停滞し、生み出す商品が以前売れた商品の焼き直しになるからだ、と考えていた。結局は、セールスパーソンにすべてを任せ“何を売るか”ではなく“どれだけ売るか”を優先させたのだ」

(引用元:Tripp Mickleの「After Steve」)

確かに、今のところアップルは独占企業だ。しかし、アップルの技術革新は停滞している。彼らが作り出している商品は以前売れた商品の焼き直しだと強く思える。それなのに、彼らは今まで以上にホワイトボックス(アップル商品の梱包ケース)を売り続けている。

アップルの収益(単位:十億ドル)

現在、アップル内で交わされている話は、ジョブズの「交代要員」CEOのTim Cook(以下「クック」という)を非難するものだ。

クックは10年という短い期間でアップルを弱体化させてしまい、自社のロックスターが使うようなデザインスタジオを、商品の良し悪しよりも利益を優先する1兆ドル規模の生産工場に変貌させてしまった。アップルを不可避の衰退に導くことになる「担当セールスパーソン」は、なんとジョブズが自分の遺産を継がせようと信頼していた人物だった。

同時に、アップルをアップルたらしめていた中心的な人材が去ってしまったようだ。ジョブズがいなくなり、今度はJony Ive氏(元アップルCDO(最高デザイン責任者)、以下「アイブ」という)も会社を去った。「デザイン重視の会社から、より功利主義的な会社に変貌するのを見て、何年もフラストレーションを感じた後」の退社だった。

(アイブはiMac、iPod、Macbook、iPhone、iPadの開発におけるデザインブレーン(design brain)として、長年にわたり常に活躍)

アイブ(2006年、Wikimedia画像より引用)

経営難の責任をクックに押し付ける話に乗るのはたやすい。

クックの時代に、アップルはほとんどイノベーションを起こすことができなかった。

  • iPhone Xのデザイン「インフィニティ・プール(infinity pool)」は、初代iPhoneが開発される以前からアイブが着想していた。

  • 新しいiPhoneシリーズはほとんど新しいものを生み出すことはなく、カメラやバッテリーの寿命といったすでに実績のある機能にますます重点を置くようになった。

  • Apple MusicはSpotifyを模倣するためだけに作られ、惨めに失敗した。

  • M1は素晴らしかったが、それはMichael Spindler(元アップルCEO)のアイデアそのものだ。しかも、同氏は「パフォーマンス(商品の性能)第一」の哲学でアップルを破産させかけたCEOだ。

  • Apple Watchはカッコよかったが、2015年にはスマートウォッチはもう目新しいものではなくなっていた(下写真参照)。

  • マルチカラー(多彩配色)を復活させるといった細部でさえも、ノスタルジア(昔を懐かしむ気持ち)からアイデアを得たものであり、先見性のあるものではない(初代Macintoshのロゴカラーは虹色だった)。

Samsung社がスマートウォッチを発売したのは、アップルより2年早い2013年だった(FlickrのKārlis Dambrāns撮影)

流行と誇大広告で稼いでいる会社のアップルにとっては、こうした商品は売れるはずがない。

アップルのビジネスモデル全体は、ショーウインドウに飾られている華やかな商品を大枚はたいて購入する顧客に頼っている。こうした商品の利幅は異様に高く(35~40%)、会社が自由に使える現金も驚くほどに所持している。

しかし、新商品をヒットさせるにはまだまだ話題性に頼っており、その話題性も徐々に弱くなってきている。

アップルに在籍した過去11年間に、クックはジョブズ時代の遺産を継承し、さらに大きくする能力があることを見せただけに終わった。彼が真に新しいものを導入したことは一度もなかった。その結果、アップルは創業以来、同社の生命線となっている購入頻度の高いリピーターに対して、その高い価格設定を正当化するのに苦労するようになることだろう。

クックとジョブズ(Flickrのthetaxhaven撮影)

しかし、クックがアップルの不可避の終焉に対して責任を負っているのだろうか。

答えは「NO」だ。筆者らが知っている限りでは、クックは偉大なCEOだ。「アップルのサプライチェーンは自身の企業価値の50%を占める」と言われるが、その企業価値は24年間の在職中にクックが率いた部門が中心となって構築してきたものだ。

クックはジョブズではなく、ジョブズのフリを一度もしなかったし、その気もなかった。そして、ジョブズはそれを知っていた。それにもかかわらず、クックがあと10年はアップルにいられるようにと、信じられないような大金を渡したのだ。

改めてだが、答えは「NO」だ。真実はもっと単純である。

実際のところ、アップルはその会社構造のために失敗する運命だったのだ。

アップルの抱える根本的な問題は「スターフィッシュ効果」とも呼べるものだ。

ジョブズがいかに唯一無二の存在であったかは、誰もが知っていることだ。彼は天才だった。それも、画期的な商品を次々と世に送り出す天才少年であった。アップルは彼がいなかったらほとんど終わっていただろう。そして創業者であるジョブズが会社に戻ってきたからこそ、息を吹き返したのだ。

アップルの収益(単位:十億ドル)

しかし、私たちは皆、ジョブズが天才だったから唯一無二の存在だったと勘違いをする。彼が非常に頭の良い人間だったことは明らかだが、それが彼を唯一無二の存在にした理由ではない。

彼無しでは正常に機能しない会社を自分で作ったから、彼は唯一無二の存在になったのだ。

ジョブズの支配下(筆者は意図的にこの言葉を使う)では、彼はアップルに関するあらゆること、および同社が会社としてしたことの全てに異様なまでの監督権を有していた。彼はデザインを承認し、マーケティングキャンペーンを巧妙に仕上げ、製造上の問題を解決し、さらにはそれらの間に存在する取次・調整までもこなした。時には、怒った顧客からのメールに回答さえもした。

「多くの社員にとって、ジョブズを失ったことは、自分の親を失ったようなものだった。ジョブズは、その社員らが過去10年以上にわたって下してきたビジネス上の意思決定のほとんどを承認していた。」

(引用元:Tripp Mickleの「After Steve」)

ジョブズはまるでヒトデのように、アップルという一つ一つのパーツの集合体を一人でまとめていたのだ。彼はアップルという体の頭脳であるだけでなく、その神経系でもあった。

ジョブズがアップルのすべてを監督していたときの様子(Wikimedia画像より引用)

ジョブズが亡くなった時(彼の容態の深刻度をまったく知らなかった社員には予想もしなかった出来事であったが)、何をしたら良いのか誰も分からなかった。

「After Steve」に、このことを正確に伝える話がある。

ジョブズが亡くなった後に行われた最初の取締役会において、新CEOに就任したクックは電話に出るために静かに会議室を出た。その後、彼は会議室には戻らずそのまま自分のオフィスに向かった。彼は、自分がいなくても取締役会が続けばと願っていた。

しばらくすると、取締役会メンバーの一人が彼のオフィスを訪ねた。

―「取締役会は終わったか」とクックは尋ねた。

―「あなたが帰ってくるのを待っていたのです」とそのメンバーは答えた。

デザインスタジオは、より一層ジョブズの指示頼りになっていた。ジョブズの支配下では、デザイン部門は神格化され、CEOであるジョブズは、つまりは、神の役割を担っていた。

彼は、スタジオで多くの時間を過ごし、社員と直接話をし、ささいな細部にまでこだわった。一つの製品ライン全体を、自分の思いつくままに中断してしまうこともあった。何かがおかしいと思ったときは、即座に怒りを爆発させた。周りの社員はだれもがその危険性を知っていたのだ。

彼は有能な支配者であったかもしれないが、支配者はしょせん支配者だった。

だから、彼がいなくなった時、デザイン部門の社員は皆、行き場を失った気持ちになった。

「長年の庇護者(patron)がいなくなると、デザインスタジオは脱力感に覆われ、一人一人がバラバラになった気がした。誰もが自分たちは落ちこぼれだと感じた」

(引用元:Tripp Mickleの「After Steve」)
「Apple.com Memorial」では、アップルの社員がジョブズの死をどのように受け入れたかを垣間見ることができる(FlickrのDavid Sanabria撮影)

では、もしもあなたが創業者の死を乗り越えられなかった会社にいたら何をするのか。

答えは、マネをすることだ。「ジョブズだったら何をするのか(What Would Steve Do)」というゲームをすることだ。

クックがCEOに就任した時の第一声は、「ジョブズの遺産を継承するためにできることはすべてやる」だった。

だからといって、クックが創造性に欠け、無能で、リスク回避姿勢だと指摘しているわけではない。これは、ジョブズなき時代に入ったアップルがとり得る唯一可能な戦略だったのだ。

結果は明らかである。それは、アップルがますますジョブズ時代の発明品を展示する博物館のようになり、将来への確かなロードマップを持つ真の企業ではないように見えるのだ。

ジョブズが残した古いアイデアの焼き直しで、アップルはいつまで生き残れるか(FlickrのUnited States Mission Geneva撮影)

本当に尋ねるべき質問はこうだ。「ジョブズがいないアップルは例外なく失敗する運命にあったのか」と「自社のイノベーション精神を継承させるために、ジョブズが生前に何か他の事をすることが可能だったのか」である。

そして、その答えは、「イエス、他の方法はある」だ。

要約すると二点ある。

第一に、自身の交代要員を育てることができたはずだ。

ジョブズが「デザインの鬼神(demigod)」と崇めていたアイブと何回食事や休暇を共にしたかは分からないが、彼はジョブズが求めるべき交代要員ではなかった。アイブはおとなしくて覇気がある性格ではないので、彼がアップルになじむようにジョブズが特別な配慮をする必要があった。

ジョブズはクックですら関係を良くしようとはしなかった。仕事以外での付き合いはほとんどなく、ジョブズ自身もクックのことを「謎めいた人物(enigma)」と思っていた。

ジョブズが亡くなった時、クックは他の社員とまったく同じように行き場を失っていた。クックはジョブズが使っていたオフィスを他の人間が入れないようにして、自分は定期的に出入りした。それは、ジョブズが自分に伝えなかった会社に関する重要事項があるならば見つけたいと考えたからだ。

現実として、両氏(クックとアイブ)は共にジョブズの交代要員ではなかった。二人とも自分たちの仕事の範疇(クックの場合は事業運営、アイブの場合はデザイン)においては非常に優秀であった。しかし、ジョブズに代わってアップルを率いるような個人的資質を持ち合わせてはいなかった。

アイブはデザインの天才だったが、CEOではなかった(Flickrのrenatomitra撮影)

これは偶然の出来事ではなかった。

一つの理由として、ジョブズが自分に敵対的な内部抗争に関してやや被害妄想的だったことが挙げられる。彼は社員を幹部クラスに昇格させることに非常に消極的であった。それは、ジョブズが最後に幹部に登用した人物が後々になって、ジョブズを会社から追放したからだ。

同じ理由で、ジョブズは自らにとって脅威とならない人材を側近にしてきた。アイブもクックも、ジョブズ本人が体現していた姿とは正反対の、冷静で高い専門性を持った努力家だった。

ジョブズが生きている間は、この経営体制が機能した。しかし、彼がいなくなったとき、その跡を継ぐ者は誰もいなかった。

現実的な後任候補はクックしかいなかった(FlickrのMike Deerkoski撮影)

面白いことに、ジョブズはこの問題を重々承知していたのだ。

Polaroid社やソニーのように、先見の明のあるリーダーがいなくなった途端に経営状態がおかしくなった企業をジョブズは長年研究していた。彼はアップルにも同じことが起こり得ると予測した。

しかし、ジョブズは2004年に癌と診断された。(2011年に逝去したので)彼には自身の後継者を育てる時間が7年間あった。

後継者を育てなかった代わりに、彼は何をしたのか。ジョブズは病状が悪化していることを世間には隠し、個人主義の歩みを歩き続けたのだ。

誰もが知っているある常識がある。『Good to Great』の中で著者のJim Collins氏は、(長期的に)高収益を上げ続ける企業には、常に自身の後継者を育成するリーダーがいることを明らかにした。天才的投資家Warren Buffett氏のビジネスモデル全体は、成功する経営者を選定かつ指南し、彼らに彼らがしたいことをやらせることに重点を置いている。

筆者は、ジョブズ自身が自分は唯一無二の存在だと、ある面では知っていたと考える。謙虚さや自己抑制は決してジョブズの得意とするところではなかった。また、彼はある時点で、自分の才能は他人に譲るには絶対的に大きすぎるという結論に至ったのだろう。

Warren Buffett氏の哲学の核心は、成功をもたらす優秀な経営者を育てること。(Wikimedia画像より引用)

ジョブズが生前にできたであろうもう一つの事は、彼がいなくなった時のためにアップル自体を準備させることだった。

ジョブズ時代のアップルは、会社を成り立たせるための地道な努力の時間というよりむしろ斬新な製品で爆発的な利益を生み出すための時間であった。経営陣はポルシェやアストンマーティンで出勤し、創造力を刺激するためにドラッグを使い、くつろぐための手段としてクラブへ通った。

「彼らはロックスターのような生活を送り、商品発表イベントの後は、リムジンにボランジェのシャンパンを積み込み、ディナーに出かけ深夜遅くまで飲み明かした。デザイナーが弾丸型のスニフターに忍ばせていたクアールード(鎮静催眠薬)やコカインなどのドラッグで遊んだ。その様は中世のルネッサンス期に自分たちの人生を芸術と発明にささげたアーティスト集団の中に芽生えた「よく働き、よく遊べ」の精神そのものだった。」

(引用元:Tripp Mickleの「After Steve」)

会社をまとめ上げるために、形式ばったヒエラルキーがあったわけではない。ジョブズはアイブや彼が率いるデザイン部門に全権を任せ、その一方でクックは静かにバックエンドの面倒を見た。デザイン以外の他の部門は基本的に一つの任務を与えられていた。それは「デザイナーの期待を裏切るな」であった。

「デザイナーは商品の外観を決め、自分たちの並外れて大きな発言権をその機能に反映させた。デザイン部門の関係スタッフは、自分たちの力を一言で表現し始めた。それは「神々(デザイナー)を失望させるな」だった。」

(引用元:Tripp Mickleの「After Steve」)
映画「Wolf of Wall Street」はやはり実話に基づいているのかもしれない。(Wikimedia画像より引用)

アップルも創業時からブリーフケースを持ち、ネクタイをしめて、営業に勤しむ会社の様になるべきだった、とは誰も言わない。

そうではなく、ジョブズが今までにない独自の方法で、手塩にかけて育てた会社組織がアップルに大きな利益をもたらしたのだ。

しかし、いつまでもスタートアップ企業のままでいることはできない。

筆者がジョブズに関して知る限りだが、彼は最後の最後まで「スタートアップ企業は善、大企業は悪」という幼稚な考え方を捨てようとしなかった。彼は、アップルを「世界最大のスタートアップ企業」だと大げさに宣言した。IBM社やMicrosoft社を「悪であり、魂の抜けた企業」と公然とバカにしたのだ。そして、アップルがそうならないように、ジョブズは出来る限りの手を尽くした。

残念だが、抗おうとしているのは自然の摂理である。会社は成長し、いつかは成熟する。金の亡者がやってくると、去る者がいて、他から来るものもいる。上手な経営方針は、この誕生・成長・成熟のプロセスを遅らせたり、プロセス自体が起こらないフリをしたりすることではない。その秘訣は、大人(経営陣)が主導権を握る一方で、その内にいる子供(後継者)を守る方法を見つけ出すことだ。

このプロセスをうまくこなす企業も中にはいる。Disney社や任天堂はともに100年企業でありながら、絶えず自己改革を行い、新しくて心踊る商品を作り続けている。

両社は優秀な個人の能力に頼っているわけではない。何十年もかけて完成されたシステムとプロセスに基づいて事を進める優秀な個人に頼っているのだ。このプロセスは、ジョブズが作ろうとしたものではなかった。

どの企業も経年劣化と無縁ではない。しかし、成熟を拒否することと、創造力を継承することは同じではない。

それは単なる「未熟」である。

最後に

筆者はもう何年も前からアップルユーザーであり、アップルが作り出したものは何でも少しずつ持っている。何かを購入するたびに、何か新しい発見をしていたような気がした。

しかし、ここ何年かはそんな風に思っていない。今回の新MacBookは、単なるMacBookだ。だが、以前より速くなった。今回の新iPhoneは、単なるiPhoneだ。だが、以前よりもカメラが大きい。筆者の古いiPhone7を最新型の11 Max(当時)にアップグレードした時も、その改良点は取るに足りないものだった。正直、11 Maxを買うのはバカらしいと思った。

最新型を買うことは考えてもいないし、今使っている旧型が壊れたときにのみ買おうと考えている。

しかし、筆者のような現実路線は、合理的な経済学ではなく、プレミアム価格の華やかな商品で成り立っているアップルのビジネスモデルとは相容れないものだ。

筆者は、アップルが焼き直すための古いアイデアを使い果たしているのではと危惧している。アップルの現経営陣がジョブズ時代の遺産を搾取し続ければ、世間はますますアップルというブランドに愛想をつかすだろう。売上は減るだろう。経営陣はこの危機を脱するために、さらなる経営者を雇うだろう。そんな経営方針で、1998年から2011年におけるアップルの経営手法を再現することは誰にもできず、問題は深まるばかりであろう。

そして、その時こそアップルが終焉するときだ。

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※この文章は下記からの引用です。
Apple Is Already Dying, And This Process Has a Name
Alan Trapulionis (Medium)
https://bit.ly/3PJ3LXS

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