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加法定理が腑に落ちた時には、すでに大学受験も過ぎ去っていました(4)

 前の記事では、加法定理の理解の為の説明方法のひとつである回転変換の合成に関連して自分語りを始めました。字数が尽きたので今回に続いています。

ストンと加法定理へ

 お話の大前提のイメージの為に、前回記事の図5を以下に再掲します。


図5再掲

この図にある回転変換について、角度$${\alpha+\beta}$$の変換と、角度$${\alpha}$$と角度$${\beta}$$の2つの変換を2段階で行うこととが、最終的に同一の回転変換になる筈である、という条件から両変換の回転行列の比較を行うことにして、前回は文字数的に一旦終了しました。
 比較の為に、2段階変換の方の各段階の回転行列の掛け算を先に実行し、1つの回転行列にまとめると、以下の様になります。

$${\begin{pmatrix}\cos\beta&-\sin\beta\\\sin\beta&\cos\beta\end{pmatrix}\begin{pmatrix}\cos\alpha&-\sin\alpha\\\sin\alpha&\cos\alpha\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta&-(\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta)\\\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta&\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta\end{pmatrix}}$$

これは、左辺を計算した変形の結果が右辺である、という式です。
 で、この計算結果である右辺が角度$${\alpha+\beta}$$の回転変換一発と等しい変換になると言う、図から自明に見て取れる条件から、両変換の回転行列が等しいということになり、それはこの条件を書き下した次の式、

$${\begin{pmatrix}\cos(\alpha+\beta)&-\sin(\alpha+\beta)\\\sin(\alpha+\beta)&\cos(\alpha+\beta)\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta&-(\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta)\\\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta&\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta\end{pmatrix}}$$

が、成立しているということに他ならないような気がいたします。
 この式の成立が図から自明であるならば、両辺の行列の同一成分同士が等しいこともまた自明ということになります。その様な視点で見比べてみます。
 すると、なんということでしょう、正弦と余弦の加法定理の関係になっているではありませんか。
 つまり、三角関数の加法定理は、2度の回転変換の合成に関するルールであると解釈できることがわかりました。言い換えると、2回の回転変換を順次1回ずつ行う2つの回転行列の積と、2つの回転角の和について1回の回転変換を行う場合の回転行列とが等しいことが自明であること、によって加法定理が説明できる、ということになりました。
 などと大仰に書くほどのこともない、高校在学中にちょっと真面目に教科書を読んでいれば、その時点でわかることなんですけれどね。筆者は人生をかけて逃げまくったあげく、10年以上も遅れて腑に落ちたという、そういう青春物語です。
 ちなみに、角度$${\alpha-\beta}$$の場合の加法定理については、$${\beta=-\beta}$$を代入して変形すれば出てくる筈なので本稿では省略です。また、正接の加法定理は別の公式から、正弦の加法定理の両辺を余弦の加法定理で割ると導かれる筈ですので、こちらも省略です。
 筆者はここまでの理屈でストンと来たのでこれ以上は考えていません。しかし、ここから先の問題というのも当然存在しています。まず第一に厳密な証明に持ちこみたいという欲求でしょうね。ここまでは意味の説明にすぎませんから、何かしらの証明に足る語り方や最終段階までの考察をやらないと落ち着かない、という向きもおられるのではないでしょうか。
 もうひとつ、単に座標変換の合成ということでは論理の終着とはせずに、幾何学的な説明(とりもなおさずある種の証明になるわけですが)に結び付けようという考えもまた、ありえることです。その場合は、図5の$${a, a', a''}$$の相対的位置関係等から図上での幾何学的考察を行うことになるのでしょうが、筆者はそこまで考える気力が続きませんので、じっくりと考える胆力をお持ちの方に、その方向性の続きはお譲りしたいと思います。

まとめ

 というわけで、その昔、この様な加法定理の腑に落ち方をしました、という自分語りを今回のテーマとしました。結局のところ、証明では無い分きっかけさえあればすぐにたどり着ける様な素直な説明方法であると思います。筆者がずっとひきずった挙句にようやく理解してほっとした時期も、今と比べれば若かったと言える頃ではあるのですが、しかし高校生とはくらぶるべくもない、そういう年齢でした。いまさらこうやって文章に起こしてみると、別に特別な教訓でも何でもない様に思えてしまい、ちょっと寂しくもあり複雑な心境です。
 その他、本稿の公開によって、本noteの記事ではいきなり加法定理を無定義のままで使っても不自然ではなくなったような気がするわけです。その状況の実現も、地味に大事なことかもしれません。

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