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塀の上から飛び降りた人は、着地まで人工衛星である(2)

 前の記事では、理想的モデルのもとでは、軌道運動と地面に着弾する砲弾等の落下する運動は本質的に同じで、地球の丸みの向こうまで飛んでゆけるか、飛んでゆけずに地面に落下するかの違いに過ぎないとしました。では、重力はあるけれど地面や地球が無いというモデルでは、地球の丸みを超えられない速度の物体はどうなるでしょう、というお話を続けようと思います。

地球が無い場合(ただし重力はある)

 軌道運動と落下は本質的に同じであるが、速度が足りない物体を水平に発射した場合に、地球の丸みをこえられず軌道運動にならず、地面に落下してしまう、そういうところだけが軌道運動と落下運動の違いであるというお話からさらに、じゃあ落下する地面がなければどうなるのか、という疑問を提示した所までが前回でした。
 まあ、地面がなければ(つまり地球がなければ)重力自体がなくなっちゃうんですが、そういうモデルではなくて、地球相当の重力(すなわち重力の源としての質量も)は存在するけれど、大きさは存在しない、そんな地球を考えようと言うことです。おかしなことを言っていますが、これは例えば高校受験の理科位で多くの人が出会ったことのある概念ですね。すなわち、質点です。
 質点は、大きさが無限に小さいにもかかわらずなんか質量(おおむね重さといってよい)は持っている、空想上の謎の物体です。受験の物理は空想上の謎の物体によって支えられているのです。
 地球質量を持つ質点を地球中心の位置に置いて大きさのある地球と交換した場合、地球表面にいる人や物はどうなるかというと、感じる重力は地球の時と同じ、ただし、足元に地面がないですから元地球中心の位置に代わりに置かれている質点から、地球半径6400km分離れた宇宙空間に存在していることになり、結構おそろしいです。まあ、またしてもご都合主義のモデル化ということで、落下思考実験の際には落下物に対して質点扱い、置かれた人や物を考える場合は地球健在、という線で行きましょうか。
 実はこの様な質点として地球を考えてみることは、この一連の記事の最初で規定したモデル、地球は完全な球だし自転もしないし空気も考えないし……というのと、ほぼ同じことに相当します。地面が無いのだけ違うので、地面が必要な時だけ理想地球扱いに戻すことにすると、まったく同じになる案配ですね。

地球質量の質点に対する運動に関する思考実験

 話を戻します。では、地球が存在する場合には速度が足りなくて地面に落下してしまう様な、軌道運動になる条件よりも速度が低い砲弾等は、地面が存在しない地球質量の質点に対する運動としては、どうなるでしょう。もはや落下着弾する地面は存在しない場合です。
 まず、地球が存在しないんですから、もともと地面があった位置の球面よりもさらに質点近くに、どんどん運動を継続するわけです。質点に置き換えない地球が存在していたら、地面にめり込んでいる様な位置関係になりますが、地球質量の質点に置き換えているわけなので、元地面よりも低い位置で普通に宇宙空間を飛び続けている様になります。
 ただし、ひとつだけ地球があった場合と質点に置き換えた場合で大きな違いが生じるんですね。それは、我々が普段感じている地球重力というのは、地球質量の質点から地球半径である6400km離れた位置での重力に等しいということであり、地面が邪魔をせずに質点にさらに近づくことができるなら、通常の万有引力の法則に従い、距離の2乗に反比例して、感じる重力がどんどん強くなる、ということです。
 例えば、地球質量を持つ質点から、現実の地球半径の半分ほどの3200kmまで近づいた位置では、地球質量の質点による重力の強さは我々が普段感じている地球重力よりもかなり強力なものになる筈です。距離半分ですから大体4倍になっている計算ですかね。もっと近づけば、もっと強烈になります。
 そんな感じで、質点への置き換え前の地球の半径、すなわち地球表面の位置よりも、置き換えた地球質量質点に近い位置まで接近した砲弾は、質点に近づくに従って強烈になる一方の重力に引っ張られてどんどん速度を増してゆくことになります。そうすると、その速さはやがて再び高さが持ち直す程速くなって上昇に転じ、そのまま地面よりん低い位置を通って質点周りを一周して、発射された位置に戻って来ることになります。すなわち、発射時の速度が地球の丸みを超える程無くても、地球が存在しない質点のモデルでは、必ず質点周りを一周して戻って来る、すべてのケースで軌道運動となり、地面に落下してしまうケースは全くなくなってしまうことになります(地面無いですから)。
 地球上で地面に落下してしまう発射された砲弾等は、もしも地面という邪魔が存在しない、地球質量を持つ質点周りの運動のモデルで考えるならば、地面よりも地球中心に近い低い所を通過して一周回ってくるような、軌道運動をしていたわけです。
 次の記事に続きます。


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