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スイングバイで失われるもの(4)

 前の記事では、スイングバイによる飛翔体の加速を、専門家の方等もよく用いる衝突による運動量の移動に類似した現象として、やや蛇足ながら改めて説明してみした。今回は、両者共に太陽の重力下で軌道運動している状態であることについて、少し考えてみたいと思います。一部、筆者の直感的な描象・理解による表記箇所があります。

両者共に軌道運動をしている

 本来のスイングバイにせよ衝突と反射を用いた例え話にせよ、共通しているのは、現象を見ている座標系に依存して速度増加が起こるという点ですね。
 惑星または例え話でのダンプの運転手の視点で見ていても(座標系に乗っていても)探査機または、例え話での軽車両の側の速度が増すことはなく、本来のスイングバイでの現象である場合、惑星に重力で引かれてどんどん加速して接近し、最接近後にくるりと向きを大きく変えてから、惑星の重力に引かれてどんどん減速しつつ遠ざかる、そう見えるわけです。
 さて、ここでダンプとの衝突天反射の例えでは曖昧になる考えの要素について一寸だけ触れてみます。それは、全体として太陽の周囲を軌道運動・公転している、というものです。
 太陽の周りを概ね円に近い楕円軌道で公転している惑星と、一応は太陽の重力に引かれながら太陽の周りをまわる様な感じで運動している飛翔体探査機は、実際問題として、両者共に太陽系の北側から見て反時計回りの同方向に太陽を周回する運動をしつつ、飛翔体は惑星を使ってスイングバイするわけです。その辺りが、衝突の例え話よりも若干複雑な要素と言えるのかもしれません。
 そして、軌道運動をしているということから、運動量のやりとりによる加速という要素とあわせて角運動量のやりとりでもある、という事実についても考慮する必要があると思われます。
 これは、現象としては運動量を考察することと重複していますので、独立してもうひとつ考察すべき項目が増えてしまうということではないのでまあ安心ではあります。
 スイングバイによって、速度の言い換えとして太陽を中心として見た場合の角速度が増える、その際惑星と飛翔体探査機とでは質量比が圧倒的に異なりますから、ほとんど惑星側に影響なく、また飛翔体から惑星への影響もほぼ無く、飛翔体の角運動量の変化が角速度の変化の形で主として起こり、コスト(とは言わないかもしれませんけれど)0同然で外惑星軌道の「高い」所まで跳ばしてもらえる、そういう現象であるとも言えるかもしれません。
 ところで、角運動量を、ほんのわずかとはいえ飛翔体探査機に与えてしまった惑星は、つまり自身については、角運動量が減少したと言えるわけです。それは軌道運動の角速度(惑星の場合はほぼ速さと同じ意味ととらえてもよいかもしれませんが)が減少したということにほかなりません、質量は変わりませんから。
 ほんのわずかだから無視しますと言わずに厳密に考えてみた場合、どういった感じになるでしょうか。最後の疑問です。

スイングバイで失われるもの

 ここまで、角運動量への言及の間合いが聊か唐突であったかもしれません。しかし、軌道運動についておしゃべりをする際に最後までずっと単純な運動量だけを用いていると、太陽と軌道運動との関連でどうしても「なんかちがう」という感じが出てきてしまいます。そこで、やや強引に話題に組み入れたのでした。
 それで、角運動量を、ほんのほんの僅かだけスイングバイによって飛翔体観測機に与えた、惑星の側はいったいどうなるというのでしょうか。
 太陽の周囲を公転運動している、惑星にしろ、隕石にしろ、探査機にしろ、もしなんからの事情で質量には変化無く公転の角運動量が失われたとしたら、第一義的には太陽に向けた「落下」が起こると考えてよいと思います。
 とはいえ、太陽まで真っ逆さまに落下するということではなさそうです。減少した角運動量に見合う所まで落下すると、そこまで落ちてきた分の位置エネルギーが運動エネルギーにかわって軌道運動の速度が増加しますので、その位置での閉じた楕円軌道を維持することになりそうです。
 つまり、太陽のまわりを公転している物体の角運動量が失われると、その分低い軌道に移ることになると思われます(その極端な場合が太陽への直接的な落下ですけれど、めったに起こらないのは宇宙の妙の様に思えます)。
 故に、スイングバイによる極々わずかな、惑星から探査機への角運動量の移動によって、惑星は極々わずかに太陽へ落下して極々わずかに公転軌道の半径が小さくなり、それを代償として飛翔体側は速度を得ることになる、と言ってよいのだと思います。そこが、スイングバイで失われるものの正体でしょう。
 しかしながら、惑星の側の角運動量の減少は、誤差の様な小さな小さな値に収まる筈です。何しろ、探査機の質量はせいぜい1トンのオーダーだと思う所ですが、地球の質量なんかは、調べたところ10の21乗トンのオーダーくらいありそうです(計算間違いがあったら申し訳ありません)。確かに厳密には、スイングバイによって惑星から探査機に角運動量が移送され、その分惑星はほんの少し太陽に落下して公転軌道半径が小さくなるのだと、そう説明しても間違ってはいません。ただ、厳密にはそうであったとしても、21乗の桁の質量の違いによる、ほんのわずかな「落下」のみとなり、実質的になにも起こっていないに等しいくらいのものになるのかもしれません。
 従って、将来科学が発達した人類が常態的にスイングバイ技術を使う様になったとしても、惑星が太陽に落下する心配は当面なさそうです。

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