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塩は氷を融かすのか、作るのか(1)

 ずっと昔に、筆者が思った疑問です。氷に糸の一端を接触させてそこに少量の食塩をまくと、糸と氷が凍り付いて固着して釣り上げることができる有名な実験があります。その一方で路面の凍結防止剤として(すなわち氷の釣り上げとは反対に)氷が出来ることを防ぐ為に食塩が使われる事例があります。いったい、食塩は凍らせるんですかね、融かすんですかね、どちらなのでしょうね。またしても、そういう雑談です。

食塩が凍らせる話

 ヨーロッパ、細かくはイタリアでしたか、ジェラートというアイスクリームがありますね。これは電気冷蔵庫ができる前からあったそうです。一般にアイスクリームは、0℃前後の温度では高温すぎてうまく作ることができない様です。しかし、電気による冷却が無い場合、0℃よりも低い温度を作るのは、冬場はともかく一般的に言ってそれほど簡単なことではないように思えます。
 以前テレビ番組で伝統的製法で作りながら販売しているジェラート屋さんを見たことがあるのですが、この製法が、砕いた氷と水をまず用意して(電気が無ければ氷も簡単ではなかったでしょうけれど、富士の風穴みたいな環境や高山の氷河等からなら、電気が無い時代でも冬季以外の取得も不可能ではないかなと、推測してみます)、そこにそれはもう「ダッパダッパ」と食塩を入れてゆきます。少し撹拌してからその氷塩水の上に容器を重ねて、そこでジェラートを作るのですが、これが驚くべきことに、アイスクリームがちゃんと形成されるのです。つまり、アイスクリーム作成容器の下の氷塩水は、0℃よりも明らかに低い温度になっていることになります。電気式の冷蔵庫等が無い時代の知恵なのでしょう。
 この事例でわかることは、水に食塩を入れると温度を下げる効果があるということですね。氷水全体で温度が下がるのか部分的なものなのか、そういった細かいことや、氷の量、砕き方など、諸条件について考える必要はありそうですが、ともかく、温度が下がります。
 この、食塩の投入で温度が下がるという現象を私たちの身近な現象で言うなら、例えば氷に糸を垂らして食塩を少量振ると糸で氷が釣れるあの有名で簡単な実験の結果に通じるものがあります。あの実験についても、糸と氷の間の水分が、食塩によって凍ることで氷と糸を固定して釣ることを可能とした、と考えるのが妥当だと思われます。
 つまりは、食塩は温度を下げ、水を凍らせる方向で働いていることになります。

食塩が凍らせない話

 実は筆者は以前数年間程、京都市で生活していたことがあります。京都は冬場は寒い街です。気象情報で見られる気温自体はそれほど極端に低くないのですが、実際に京都の冬の寒さを体験すると、なんというか寒さと申しますか強い冷たさの様なものをひしひしと感じつつ、朝通勤したりするわけです。
 筆者は南関東のあたりの出身で、過去の人生における冬場の生活で、実はあまり路面の凍結防止剤というものに注目した経験がありませんでした。時間と共に全国的に対応が拡大しているということであれば必ずしも地域差とは限りませんが、筆者自身の視点での体験としては少なくとも、あらかじめ交差点毎に凍結防止剤の袋が隅っこにどさっと置かれている光景は、京都在住時に生まれて初めて気が付いた様な案配です。
 凍結防止剤は道路が凍ってつるつるになるのを防ぐ薬剤です。これが、路面用には塩化カルシウムが成分の物が多い様ですが、調べたところでは、塩化ナトリウム、すなわち食塩の成分のものも凍結防止剤として使われているとのことでした。
 すなわち、食塩を道に撒いておくと路面の水が凍らない、その効果があることが確かであるから税金で大量に購入できているわけで、実際に食塩が路面を凍らせないというのに間違いはなさそうです。

凍らせるのか凍らせないのかはっきりしなさい

 ここまでの確認で、私たちはあるポイントについて盛大に首をひねる必要があります。
 ジェラートを作る際には、食塩によってアイスクリームが作成可能なほどの温度低下がもたらされました。アイスクリームは牛乳や砂糖の成分が触感や固まる温度に影響を与えてはいるものの、原理としては、水分が凍る方向性の過程で作られます。すなわち、ここでの食塩は、水が凍ることを促しています。
 一方、路面の凍結防止剤で食塩相当の成分の物が使われ、実際に効果が発生するという事実からは、食塩が路面凍結を防止する様に働くことが理解できます。すなわち、ここでの食塩は、水が氷ることを妨げています。
 まるっきり反対方向に見える働きですね。理解に苦しみますね。

 といった所で、一度終了です。次の記事で、これらの相反する事象の一体的説明を試みます。

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