夏の残り火|キミの隣りで因数分解を解きたい
はじめに|夏休みの魔法
子どもの頃から繰り返しかけられてきた、夏休みの魔法のような効果かもしれません。
夏になれば決まって長いお休みがやってきた、もう遥か遠くになってしまったあの日々。
行ったことのない場所。
見たことのない景色。
はじめて聞く言葉。
書いたことのない長い長い物語。
描いたことのない大きな大きな絵。
夏休みはまるで、いつもとは違うことをしてみるための時間のようでした。
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藤家 秋さんの詠まれた「残り火」という言葉としっとりとした短歌に、どうしようもなく惹かれてしまったのはもう何日も前のことです。
「夏の残り火アンソロジー」の中の、焦がれるような作品をいくつもいくつも読みました。
そうして、もうすぐ夏も終わるのだから、いつもと違うことをしてみようと思い立ちました。
こちらの企画に参加させていただきます🌻
どうぞよろしくお願いいたします✨
つたないストーリーを読む前に、できることならほんの少し目を閉じていただけたら。
気持ちだけ、15歳の夏にタイムスリップできますよう。
キーンコーン、カーンコーン‥‥
チャイムの音と、
ザワザワ、ザワザワ‥‥
教室のざわめき。
✨
キミの隣りで因数分解を解きたい
すごい情報を手に入れてしまった。
テニス部の友達によると、図書館でキミがあの子と勉強していたのは、普通に数学を教えてあげてただけなんだって。
デートとかでは全然なく、たまたまふたりきりになってただけなんだって。
いや待てふたりきりだよな。
それ絶対あの子の作戦だよな。
キミの本心は因数分解より難問だ。
15の夏はもうすぐ終わる。
受験勉強はちゃんとやっている。
高校でも、キミと一緒の制服を着たいんだ。
がんばれ自分。
そりゃもう心臓バクバクで酸欠状態だったけど、この夏が終わってしまうから、持てるものの全てを込めてキミに告げた。
「あ、あの、ねえ!
因数分解、教えてほしい。
できればそのー、ふ、ふたりきりで!」
空耳かと疑った。
気が抜けるくらいあっさりと、「いいよ、別に」って言うもんだから、開いた自分の口が勝手に笑い出すのを必死でこらえながら、汗を拭うふりの右手でそれを隠したんだ。
約束は、9月最初の水曜日の午後。
図書館帰りにまたあのカフェに行きたい。
今度はソーダじゃなくて、カフェ・ラテなんか頼んだりして。
願わくば向かい合わせじゃなくて、隣に座りたいんだなんて言ってみたりして。
ああまた心臓が痛い。
それでも気分は晴れていた。
消えそうで消せない火花を抱えたまま、この夏の残りの日を全力で駆け抜けてみせたのだから。
おわりに
慣れないストーリーを思いつくまま書いてみました。
実は、同じく藤家 秋さん企画〝炭酸刺繍|盛夏編〟へ参加した作品の続編風になっております✨
図書館帰りにふたりが行くかもしれないカフェはこちらです。
距離が近いから隣に座りたい派と、顔をまっすぐ見られる向かい合わせに座りたい派がいるのかもしれないと、ふと考えました。
たまには気持ちだけタイムスリップするのもなかなかいいものです。
最後までおつき合いいただき、ありがとうございました🌻
ここまでお読みいただきありがとうございます。 思いのカケラが届きますように。