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ぐりとぐらのカステラを探しに、絵本の世界を散歩する。
本棚から取り出したる1冊の本。
絵本「ぐりとぐら」のすべて。
と銘打たれたこちらの本が、今回のお散歩のガイドブックである。
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「ぼくらのなまえはぐりとぐら」
ぐりとぐらのカステラ
子どもの頃、もしくは子どもと一緒に、はたまた大人になってから、耳にしたことはないだろうか。
〝ぼくらのなまえは ぐりとぐら
このよで いちばん すきなのは
おりょうりすること たべること〟
というあの歌を。
作者の中川李枝子さんは、節をつけずに言葉のみの詩として書いたそうだが、長い年月のうちにあちらこちらで、いろいろなメロディをつけて歌われるようになったという。
月刊誌「母の友」で、どう歌っているかと呼びかけたところ、100を超える音源や楽譜が集まったそうだ。
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全116種類の歌い方の楽譜が
何ページにもわたって載っている。
おいしいものが食べたい。
おいしいものを作れたらうれしい。
誰かと一緒に作ったり食べたりしたら、もっと楽しい。
ステキな毎日を思いうかべたら、そこにはきっといつもある、おいしいもの。
そのシリーズは絵本だけでも6冊を数える「ぐりとぐら」の1冊目で焼きあげられる、明るい黄色をした大きなカステラこそ、子どものときからいつでも食べられる大好きなおやつだった。
フライパンも、卵もいらない。
ただ、横長の四角い絵本のページを1枚ずつめくっていけば、必ず焼きたてにありつけるのだ。
🥞
ことの発端は、自由が丘にパンケーキを食べに行こうというお誘いだった。
絵本に出てくるパンケーキみたいで、muが好きそうなお店だよ、と。
しかし予定が合わず、この時は行くことができなかった。
調べると「ぐりとぐら」のパンケーキ、と呼ばれるメニューを提供するお店がいくつかあった。
目にとまったのは自由が丘ではなく、ひばりヶ丘のカフェだった。
ずっと昔に、おばあちゃんの家があった町である。
子どもの頃、両親が不在のときによく預けられていた古い平屋はもうないのだが、庭に大きなドラム缶を埋めて水を入れ金魚を泳がせた、おじいちゃんお手製の池を今も懐かしく思い出す。
ひばりヶ丘にあるカフェで出される季節のデザートの写真は、いちごの断面を外側に向けて行儀よく並べてパフェグラスを飾りつけてあり、かわいらしくておいしそうだった。
そして何より、カステラパンケーキというメニューがあるではないか。
ぐりとぐらのカステラのように、期待がふくらんだ。
〝COMMA,COFFEE〟のカステラパンケーキ
私鉄電車で東京を西へ西へ移動して、ひばりヶ丘駅からさらにバスに揺られて、団地が並ぶバス停で降りて、また歩いていく。
comma〝 , 〟は、日本語の読点のように文節と文節の区切りなどに打つ。
ゆっくりひと息つけるように、というお店の思いなのだろう。
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大きなガラス戸からあかるい日差しがたっぷり入る。
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寄り添う透明なシュワシュワマンゴーと
クリーミィな白いマンゴーののみもの。
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いいヘタリ具合の大きなソファと
低いテーブルの席に案内された。
スープ、3種のデリ、ごはんのプレートを
いただきます!
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見せられた友人Uちゃんが一緒に来てくれたので、
がっつりポークソテーもシェアしてもりもりいただく。
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ほかほか、ふんわり、どーん!と
焼き上がりまで約30分の
カステラパンケーキが目の前に。
わああー!とあちこちのテーブルで
もれなく歓声があがる。
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ここ、このページをおさえてて!
早く食べようよー、バターがとけちゃうー。
降りたったひばりヶ丘駅に、記憶の中の面影はなかった。
くねった細い坂道の両脇に並んでいた商店街はなくなり、きれいに整えられた団地の敷地には、美しいとさえ感じられる大きな白い建物がいくつも並んでいた。
その団地のコミュニティスペースの一角で、思い出の絵本から飛び出したようなカステラパンケーキを食べたので、真新しい家におじゃましたらおばあちゃんの作ったごはんが出てきたような、アンバランスなのに懐かしい気がした。
だから風景が変わってしまった寂しさはなく、お腹も心もすっかり満たされて、のんびりと帰りのバスと電車を乗り継いだのだった。
おうちで焼いたおやつのような
「ぼくらのなまえはぐりとぐら」には、姉妹である原作者おふたりの対談や制作の裏話、日本や世界のさまざまな職業の人が寄せた絵本体験の思い出などがおさめられている。
さらに読者から集まった歌のほかにも、この絵本にまつわる料理や手芸などのページもある。
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おうちで作ってみることにする。
レシピを見ながら、フライパンで焼きあげる。
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いいの、いいの。
できたてあつあつを食べてみよう。
絵を描いたのは、山脇百合子さん。(初期の絵本では旧姓のおおむらゆりこ、というお名前である)
「ぼくらのなまえはぐりとぐら」によれば、高校3年生の秋から「母の友」で絵を描いていたという。
お姉さんである中川李枝子さんの「たまご」という童話が同誌に載ったときにもカットを描き、それがのちに1作目の絵本「ぐりとぐら」になって出版されることになる。
思いたって、本棚から同じ画家の絵本を取りだして並べてみる。
描かれた赤と青の服を着たのねずみや、野菜、草花、子ども、動物、食べ物や小物は、シンプルで温かみのある線と色味だ。
自然のものと同じく、ちょっと曲がったりゆらいだりしているのは、そのものをきちんとスケッチして描いたからなのだと本を読んで知った。
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ずっと前からくり返し読んできた絵本は、
少しだけ背がやぶれ、表紙の白も色づいている。
子どもの自分はただお話が大好きでくり返し読んでいたのだが、どうやらこの絵にも強く惹かれていたらしく、大人になってから何冊か手に入れている。
甘いクリーム、色鮮やかなフルーツやアイスを飾りつけた豪華なスイーツではなく、家にある粉と卵とミルクで焼いたちょっと不揃いのマフィンのような。
毎日食べても飽きない、素朴でやさしいおやつのような、何ともいえない魅力のある絵なのだ。
ぐりとぐらの世界を〝PLAY!MUSEUM〟で散歩する
行きつけの美術館が、はじめてできた。
東京の立川にオープンした「PLAY!MUSEUM」である。お隣は子どものための屋内広場「PLAY!PARK」で、複合文化施設として誕生した。
これまでの展示は「はらぺこあおむし」のエリック・カール展、「がまくんとかえるくん」のアーノルド・ローベル展、クマのプーさん展、ミッフィー展、コジコジ万博、谷川俊太郎展、junaida展、酒井駒子展などなど、年パスがあれば購入したい美術館なのである。
ある年の年間展示として「ぐりとぐら」はやって来た。
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どんなmuseumなのか、
ついて来てもらえればわかるので。
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シールのおみやげが(大人も)もらえる。
半券のかわりにMの文字のシールを服に貼り付けて入口へ。
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順路にそって進んでいくと
おおきな おおきな たまごが!
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もちろんこのすべすべのたまごにさわったり、
回りをくるくる歩いたりもできる。
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たまごやきの色か、それともとけたバターの色?
壁の文字を追っていると思い出の中の
読み聞かせの声がよみがえる。
母の声か、それとも自分の声?
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ぐりとぐらがごちそうしてくれる。
お好きなカケラをひとつどうぞ。
あの黄色い階段をのぼりきると、すべり台があった。
子どもたちが次々と満面の笑顔ですべり降りてくる。
そうすると野原の色をしたじゅうたんの場所について、動物たちと一緒にカステラを食べる場面になるというわけだ。
黄色い階段の上から子どもたちのいない合間を見はからって、すべり台をシュウーーッと気持ちよくすべりおりてみた。
すごく楽しいですよ!
みなさんも1回いかがですか、と周囲の大人たちに呼びかけることはしなかったが、満足だった。
さて、ほどよくお腹がすいてきたところで、ミュージアム併設のカフェに向かう。
毎回の展示に合わせて、それはそれは工夫をこらしたスペシャルなメニューが用意されている。
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カステラにはメープルシロップとベリーのソース、生クリームが添えられている。
ごく薄いこのバターの四角はちょっと大き過ぎるのでは、と思いながらもやっぱりうれしくて、黒いフライパン型のスキレットがしばらく温め続けてくれるカステラを、食べ終わりを惜しみながらおいしくいただいた。
さすがに冷めてしまうだろう、というところまでじっくり眺めてから、カフェラテにもそっと口をつけた。
おわりに
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家に帰ってまた、絵本をひらいてみる。
いつでも食べられる、おいしいおやつのページ。
これは自分だけの思い出であり、今日まで続くしあわせの記憶でもある。
一冊の同じ絵本でも、その楽しみ方はひとりひとり違っています。
この本では、実にたくさんの読者が、「ぐりとぐら」についての自分の体験を、様々な形で表現してくれました。
ぐりとぐらが愛される秘密は、読む人ひとりひとりの秘密でもあります。
絵本の世界を散歩して、絵とことばが長い時間、誰かに何かを届け続けられるのだということをあらためて強く感じた。
そして受け取るものはひとりずつちがっている。
もしそれが、ごく小さくても大切なものになったとしたら、どんなにうれしいことだろう。
見知らぬ誰かに届くよう、そのひとりに思いをはせて、今日もことばを選び、絵を描こうと思った。
だがその前にまず、おやつを食べることにしようか。
🥞
すっかり長くなってしまったお散歩に最後までおつき合いいただき、
thank you so much!
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